すばる望遠鏡 SEEDSプロジェクト、「第二の木星」の直接撮影に成功

すばる望遠鏡 SEEDSプロジェクト、「第二の木星」の直接撮影に成功

2013年8月5日

 松尾太郎 理学研究科特定准教授、田村元秀 東京大学・国立天文台教授を中心とする研究チームは、地球から約60光年離れた太陽型の恒星(GJ504)を周回する惑星GJ504bを、世界で初めて直接撮像法で検出することに成功しました。この惑星は、惑星の明るさから質量を推定する際に生じる不定性が小さく、質量推定の信頼度が極めて高いものです。これまで直接撮像された惑星と比較して、最も暗くかつ最も温度が低いことが分かっており、「第二の木星」の直接撮像に、これまでで最も近づいたと言えます。

 本研究成果は、米国の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」2013年9月1日号に掲載される予定です。

概要

系外惑星の観測

 太陽系外にある恒星を周回する惑星(系外惑星)の候補天体の数は、2013年7月現在、ケプラー衛星による有力な惑星候補も入れると既に3500個を越えました。これらのほとんどは間接的な観測によるものです。一方、系外惑星を直接画像に写すこと(直接撮像観測)は、非常に挑戦的な課題です。とりわけ、太陽系の惑星軌道程度の広がりに位置する惑星は、これまで10例程度しか報告されていません。その理由は、暗い惑星がすぐ近くにある明るい恒星の光に埋もれてしまい、惑星を見分けることがとても難しいからです。あたかも、明るい灯台の近くを飛び回る蛍の光を遠方から捉えようとするようなものです。しかし、惑星の明るさ、温度、軌道、大気など重要な情報が直接的に得られるため、直接撮像は究極の系外惑星観測方法とも言えます。

 三つのA型星(太陽の2倍程度の質量を持つ恒星)の周りを公転する惑星(候補)が、ジェミニ望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡などの観測で2008年に報告されました。そのうちHR8799を周回する4惑星は、すばる望遠鏡でもその存在が確認されています。それらは 5~10木星質量で、24~68天文単位(1天文単位は地球・太陽間の距離、約1.5億キロメートル、光の速さで約8分)の距離にあります。また、直接観測された他の惑星も、その明るさから惑星質量は10木星質量程度と推定されています。

最も軽い惑星の直接撮像の成功 「GJ504b」

 すばる望遠鏡では、太陽系外の惑星やその誕生現場である原始惑星系円盤などを直接撮像観測するプロジェクトSEEDS(Strategic Explorations of Exoplanets and Disks with Subaru Telescope:すばる望遠鏡による戦略的惑星・円盤探査プロジェクト)が2009年から約5年間にわたって行われています。今回、本研究チームは、おとめ座の方向、地球から約60光年離れた太陽型の恒星(GJ504)を周回する惑星GJ504bを世界で初めて、直接撮像法で検出することに成功しました(図1)。恒星自体は肉眼でも見える明るさ(約5等級)ですが、惑星は赤外線波長で17~20等ととても暗く、恒星の60万分の1以下の見かけの明るさしかありません。直接観測では、1回きりの撮像ではたまたま背景に写りこんだ無関係の星と誤認する可能性があります。研究チームはGJ504bを7回に渡って観測し、背景星でないことも、さらにはその主星GJ504に対して軌道運動することも確認しました。惑星と主星までの見かけの距離は44天文単位で、海王星の軌道半径より大きく冥王星の軌道半径に匹敵します。


図1:すばる望遠鏡HiCIAOによる、太陽型恒星GJ504のまわりの低質量惑星GJ504bの赤外線カラー合成画像。コロナグラフにより中心の明るい主星からの光の影響は抑制されていますが、それでも取りきれない成分が中心部から放射状に広がっています。右はノイズに対する信号強度を画素ごとに表したもので、惑星検出が十分に有意であること、主星のまわりの成分はノイズであることを示しています。(クレジット:国立天文台)


図2:天球におけるGJ504の位置を示した図。主星は太陽に似た恒星で、おとめ座の方向、約60光年の距離にあります。(クレジット:国立天文台)

 直接観測では、惑星の質量は明るさと年齢に基づいて推定されます。これまでに撮像に成功している惑星はいずれも年齢が5千万年以下と若く、そのような若い天体の質量推定には幅があります。それは、惑星がどのように生まれたのかが分からないため、用いる天体進化の理論モデルによって惑星質量に不定性が生じるためです。木星の約14倍の質量を持つ天体は褐色矮星 (かっしょくわいせい:惑星と恒星の中間的な質量を持つ天体) として区別されることが多いのですが、 実はこの質量不定性が惑星と褐色矮星の区別を非常に難しくしています。実際、新しいモデルを用いると、これまでに直接撮像された全ての惑星が木星質量の14倍よりも重い天体になってしまいます。一方、GJ504bの場合は年齢が1~5億年と比較的年老いているため、質量推定においてこの不定性の影響は小さくなります。研究チームはさまざまなモデルを用いてもGJ504bの質量は褐色矮星の質量よりも十分に小さいことを突き止めました。まさに「第二の木星」と呼ぶにふさわしい天体です。従来の理論を用いると、この天体の質量は最低でわずか木星の3倍の可能性もあり、その場合、これまでに撮像された惑星の質量としては最小記録です。年齢の不定性を考慮した場合でも、3~5.5木星質量がもっともらしいと推定されました。

 直接観測の長所は、惑星を「発見」するだけでなく、「特徴づける」ことも同時に可能なことです。複数の赤外線波長における撮像観測から、この天体は温度が絶対温度で約500度(摂氏230度)と非常に低温であること、また、特異なカラーを持つことも分かりました(図3)。これらは、この巨大惑星の大気についての重要な情報をもたらします。過去の褐色矮星の観測から、その大気には塵でできた雲が有る場合と無い場合があることがわかっています。褐色矮星と系外惑星のカラーを比較すると、これまでの直接撮像惑星が塵でできた雲に富んだ大気であるのに対し、惑星GJ504bは低温度で大気中の雲が少ない惑星の例と考えられます。


図3:惑星GJ504bのカラー。他の直接撮像惑星(HR8799の3惑星など)と異なり「青い色」をしていることがわかる。これは、雲を持たない褐色矮星の「色」と似ており、雲が支配的な系外惑星大気とは対照的である。(クレジット:国立天文台)

第二の木星の起源

 GJ504bは太陽に似た主星から44天文単位離れた領域に発見されました。このような太陽型星の周りの巨大惑星はどのようにしてできたのでしょうか? 太陽系のデータを元として作られた太陽系形成理論に基づく「標準的惑星形成理論」では、このような遠方に惑星を形成することは難しいとされます。巨大惑星になるためにはまず、原始惑星系円盤中で大量のガスを集めることが可能なほど大きな固体の原始惑星が形成される必要があります。しかし、恒星からおよそ30天文単位以遠の領域ではそれが難しいことが理論的に知られており、GJ504の惑星系の場合も同じです。重い円盤が重力不安定を起こして巨大惑星を作る可能性もありますが、そのような重い円盤が太陽型星のまわりにできる可能性は低そうです。

 このように今回発見されたGJ504bの起源を特定することは、現時点では困難です。ただし、GJ504は典型的な恒星よりも金属量が多いことが知られており、これが固体の原始惑星の形成を促進し、結果として巨大惑星への成長に影響した可能性などが、研究チームによって指摘されています。検証には今後さらなる観測が必要ですが、今回の観測結果が惑星系形成理論に大きな一石を投じたのは確かです。

SEEDSプロジェクトとは

 SEEDSは2009年に完成した新型コロナグラフカメラHiCIAO(ハイチャオ)補償光学装置を用いて、約500個の太陽近くの恒星のまわりの惑星や星周構造を直接検出することを目指すプロジェクトです。国立天文台・東京大学が中心となって推進しています。プロジェクトメンバーは約120名で、その3分の2が国内の関連研究者、3分の1が米欧の関連研究者からなる国際共同プロジェクトです。既に計画の75%以上の観測を順調に終えています。

 現在までにGJ758およびアンドロメダ座カッパ星のまわりの巨大惑星の直接観測による発見に成功しています。また、ぎょしゃ座AB星、リック・カルシウム15星、HD169142星、SAO206462星、PDS70星、おうし座UX星、さそり座J1604星、HR4796A星、HIP79977星など、多数の星の周囲にある原始惑星系円盤の詳細な構造を明らかにしています (図4)。SEEDSで直接撮像された原始惑星系円盤では、遠方巨大惑星が発見される半径領域に空隙構造や渦巻腕構造が多く見られます。この原因として既に惑星が「円盤中に存在している可能性」があります。つまり、今回発見された惑星GJ504bのように遠方で巨大惑星が生まれることは珍しくないのかもしれません。SEEDSプロジェクトの観測結果から、標準理論を越えた惑星系形成理論が新たに求められていると言っても過言ではありません。


図4:すばる望遠鏡SEEDSプロジェクトで撮影された、若い恒星のまわりの星周円盤の画像ギャラリー。観測波長は赤外線。主星からの光が円盤の表面で反射した光の成分のみを取り出している。円盤中に明らかな空隙構造や渦巻腕構造があることがわかる。(クレジット:国立天文台)

 また、個々の天体の詳細解析だけでなく、統計的議論を行えるようになってきました。このような直接観測を続けることによって、遠方巨大惑星はどの程度の頻度で存在するのか、どのように形成されたか、太陽系の外の巨大惑星の大気はどのような特徴か、また、宇宙の中で太陽系は普遍的な存在なのか、という問いに迫ることが可能になります。今後は補償光学の性能を向上させた SCExAO(スケックス・エーオー:超補償光学系) との組み合わせにより、より内側の惑星探査を行うことも計画されています。これは、「惑星」に対するわれわれの理解を何段階も前に進めることにつながるはずです。

本研究は、科学研究費補助金 22000005, 23103002、23103004 による助成を受けています。

用語解説

系外惑星の間接的観測方法

直接観測が惑星そのものを直接画像に捉えるのに対して、間接観測は惑星の公転運動による恒星の速度ふらつきを高精度分光観測で測定するドップラー法や、惑星が恒星前面を通過する際の明るさの変化 (食) を検出するトランジット法があります。

HiCIAO (ハイチャオ)

系外惑星や星周円盤を観測するためには、すぐ近くにある明るい恒星からの光が邪魔となります。そのために、明るい恒星からの光を遮り、近くの惑星・円盤を検出するための特殊な技術、コロナグラフが必要となります。2009年7月に日本でも見られた皆既日食は、明るい太陽の光を月が遮る自然のコロナグラフと言えます。すばる望遠鏡には世界の8m級望遠鏡に先駆けて専用コロナグラフ (CIAO:チャオ) が2001年より設置されていました。今回、従来のコロナグラフだけでなく、いろいろな差分撮像 (波長、偏光、角度差分撮像法:いずれも明るい恒星からの光の影響を低減する手法) の先端技術も利用できるように開発されたのが新装置HiCIAO (ハイチャオ) です。HiCIAO(ハイチャオ)は高コントラストコロナグラフ撮像装置 (High Contrast Instrument for the Subaru Next Generation Adaptive Optics)の略称です。文部科学省科学研究費特定領域研究(太陽系外惑星科学の展開)に基づき5年間で開発されたこの装置は、従来のコロナグラフ性能を10倍以上も上回ります。2008年12月に、大気揺らぎをリアルタイムで補正する補償光学装置AO188との組み合わせ初観測に成功し、2009年10月よりSEEDSプロジェクトを進めています。

補償光学装置

地球大気による星像の乱れを補正することで高解像度を達成する観測装置です。地球大気により乱された星像の状態をセンサーで測定し、可変形鏡と呼ばれる鏡で大気揺らぎの影響をリアルタイムで補正することにより、星像の乱れを補正します。これにより、あたかも宇宙空間における望遠鏡のように、その口径に応じた本来の性能に近い解像度で観測を行うことが可能になります。

SCExAO(スケックス・エーオー:超補償光学系)

系外惑星探査のための次世代補償光学。従来よりも約一桁多い素子で大気揺らぎを抑制し、宇宙空間からの観測に匹敵する優れた星像を得ることができます。また、先進的コロナグラフの活用により、主星の近くの暗い天体を観測する能力 (コントラスト) を2桁以上向上させることができると期待されます。

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1088/0004-637X/774/1/11

M. Kuzuhara, M. Tamura, T. Kudo, M. Janson, R. Kandori, T. D. Brandt, C. Thalmann, D. Spiegel, B. Biller, J. Carson, Y. Hori, R. Suzuki, A. Burrows, T. Henning, E. L. Turner, M. W. McElwain, A. Moro-Martín, T. Suenaga, Y. H. Takahashi, J. Kwon, P. Lucas, L. Abe, W. Brandner, S. Egner, M. Feldt, H. Fujiwara, M. Goto, C. A. Grady, O. Guyon, J. Hashimoto, Y. Hayano, M. Hayashi, S. S. Hayashi, K. W. Hodapp, M. Ishii, M. Iye, G. R. Knapp, T. Matsuo, S. Mayama, S. Miyama, J.-I. Morino, J. Nishikawa, T. Nishimura, T. Kotani, N. Kusakabe, T.-S. Pyo, E. Serabyn, H. Suto, M. Takami, N. Takato, H. Terada, D. Tomono, M. Watanabe, J. P. Wisniewski, T. Yamada, H. Takami and T. Usuda.
Direct Imaging of a Cold Jovian Exoplanet in Orbit around the Sun-like Star GJ 504.
The Astrophysical Journal, Volume 774, Issue 1 (2013 September 1)