2013年7月10日
左から、今井准教授、松村岐阜大学准教授、権田研究員
今井啓雄 霊長類研究所准教授、権田彩 同共同利用研究員(岐阜大学大学院生として2013年3月まで)、松村秀一 岐阜大学准教授、郷康広 自然科学研究機構特任准教授、斉籐正一郎 岐阜大学准教授らの研究グループは、コモンマーモセットで特異的に味覚情報伝達分子群が盲腸や大腸などで、舌と同量もしくはそれ以上に発現していることを発見しました。
本研究成果は英国科学誌「Biology Letters」オンライン版(ロンドン時間2013年7月10日)に掲載されました。

霊長類研究所内で飼育されているコモンマーモセット(写真提供:霊長類研究所)
研究の概要
近年、味覚情報伝達分子群が舌だけでなく消化器系やその他の臓器にも存在していることが、各種哺乳類において報告されています。本研究では、霊長類で定量的逆転写PCR法を用いて、味覚情報伝達に関わるGタンパク質gustducinとTRPM5、および各種味覚受容体などの存在量を定量解析しました。その結果、コモンマーモセットで特異的にこれらのmRNAが、盲腸や大腸などで、舌と同量もしくはそれ以上に発現していることが確認されました(図1)。また、免疫組織染色法を用いて、これらのタンパク質が存在している細胞の特定を試みた結果、特徴的な細胞に陽性シグナルが観察されました(図2)。
図1:マーモセット各種臓器におけるgustducinの発現量をRNA全体あたりのgustducin
mRNA量として示した。図は生後すぐの個体の平均例。舌と同等かそれ以上に盲腸や大腸での発現量が多いことがわかる。
図2:マーモセット盲腸におけるgustducinと苦味受容体の共存
Gustducin(A:赤)は苦味受容体(B:緑)と同じ細胞(C:重ね合わせ)に発現している(矢印)ことから、苦味受容体で受容された苦味応答がこの細胞内で情報として変換・伝達されていることが示唆される。スケールバーは50μm
コモンマーモセットで観察された盲腸・大腸における味覚情報伝達分子群の特異的な大量の発現は、他の霊長類(ニホンザル、ヒヒ、リスザル等)では観察されなかったことから、霊長類の中でもマーモセット科に特殊な現象である可能性が高いと考えられます。マーモセットは樹脂や樹液を摂取し、盲腸で発酵することが知られているため、盲腸における味覚情報伝達タンパク質群の発現は、この食性に関係しているかもしれません。
一方、ヒトでも胃・小腸・大腸等に味覚情報伝達分子群が発現し、直接的なホルモン分泌や神経回路を通して食欲や血糖値等を制御していることが知られています。マーモセットは近年、遺伝子導入などができるモデル霊長類として注目されているため、このような腸管での「味覚」の役割の解明に貢献できることが期待されます。
本研究成果は、主に以下の事業・研究課題によって得られました。
- 霊長類研究所共同利用・共同研究拠点
研究課題名:「霊長類学総合研究拠点」
研究代表者:平井啓久(所長) - 科学研究費補助金 基盤研究(B)
研究課題名:「ゲノム多様性を基盤とした霊長類の種内・種間感覚特性の解明」
研究代表者: 今井啓雄(霊長類研究所准教授)
研究期間: 2009年4月~2012年3月 - 科学研究費補助金 基盤研究(B)
研究課題名:「霊長類化学感覚の分子・細胞メカニズム」
研究代表者: 今井啓雄(霊長類研究所准教授)
研究期間:2012年4月~2016年3月 (予定) - 武田科学振興財団2009年度生命科学研究奨励
研究課題名:「霊長類苦味受容の分子・細胞・個体研究」
研究代表者: 今井啓雄(霊長類研究所准教授)
研究期間:2009年12月~2012年11月
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1098/rsbl.2013.0409
掲載誌
Biology Letters, 23 August 2013, vol. 9 no. 4
論文タイトル
Expression of taste signal transduction molecules in the cecum of common marmosets.
(コモンマーモセットの盲腸における味覚情報伝達分子群の発現)
著者
権田彩1,2、松村秀一1,2、斉藤正一郎2、郷康広3、今井啓雄3
1:霊長類研究所 共同利用研究員
2:岐阜大学 応用生物科学部
3:霊長類研究所 分子生理研究部門遺伝子情報分野
- 朝日新聞(7月10日夕刊 6面)、京都新聞(7月10日夕刊 1面)、産経新聞(7月10日夕刊 10面)、中日新聞(7月11日 3面)および読売新聞(7月11日 12面)に掲載されました。