2013年7月4日
寺尾特定助教
寺尾知可史(てらお ちかし) 医学研究科附属ゲノム医学センター特定助教、松田文彦 同教授、吉藤元(よしふじ はじめ) 医学部附属病院助教、三森経世(みもり つねよ) 医学研究科臨床免疫学分野教授を中心とする研究グループは、高安病の関連遺伝子を二つ発見しました。
本研究成果は、米国科学誌「The American Journal of Human Genetics」の電子版に2013年7月3日(米国東部時間12時)掲載されました。
研究成果のポイント
- 高安病の全ゲノム関連解析を世界で初めて行い、関連遺伝子としてIL12B,MLXを発見
- IL12Bは高安病発症において既知のHLA-B*52:01と相互作用を示すことを発見
- IL12Bは疾患の発症だけでなく、疾患の高活動性および合併症の頻度・重篤度に関連することを発見
高安病とは
高安病(高安動脈炎/大動脈炎症候群)は20世紀初めに高安右人教授により我が国から世界で初めて報告された疾患であり、主に若年女性に発症し、大動脈およびその主要分枝における動脈の炎症を主体とする全身性血管炎です。動脈の狭窄や拡張を呈し、脈なし病とも呼ばれています。合併症として心臓弁膜症の一種である大動脈弁閉鎖不全症や肺梗塞、失明などをきたします。患者は世界中に存在しており、本邦での患者数は約5,000人と推定され、厚生労働省により特定疾患治療研究事業対象疾患に指定されています。副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤で治療され、病態が落ち着く患者さんもいますが、治療に難渋することも少なくありません。
高安病の原因として遺伝的要因や感染症などの環境要因が推定されていますが、原因は明らかではありません。遺伝的要因として、自己と非自己を認識し、免疫に深くかかわるヒト白血球組織適合抗原(HLA)の一種であるHLA-B遺伝子の関与が示されてきましたが、それ以外の要因は分かっていませんでした。
本研究の概要
本研究グループは、各施設の患者さんに加えて、高安病の患者団体である「あけぼの会」から協力を得て患者さんのDNAを集めました。167人の患者さんと663人の健常人対照検体を用いて一塩基多型(SNP)と呼ばれる遺伝子変異に注目したアレイを使用し、全ゲノム関連解析(GWAS)を行いました。その結果、24,487SNPにおける解析によって、既知のHLA-B領域を含む六つの疾患感受性遺伝子の候補を見出しました(図1)。それら6領域について、212人の患者さんと1,322人の健常人対照検体を用いて関連を再評価し、HLA-B領域(p値2.8x10-21)に加えて、IL12B、MLXの2領域が疾患と関連することを見出しました(p値1.7x10-13, 5.2x10-7)。IL12Bによって作られるタンパクは、白血球が産生する炎症性サイトカインと呼ばれる物質を構成する要素の一つです。MLXによって作られるタンパクは、他の遺伝子の発現を制御する転写因子の一種ですが、詳しい役割は分かっていません。本研究グループの解析の結果、IL12BのSNP(rs6871626)が高安病発症において既知のHLA-B*52:01と相互作用を示し、両遺伝子が非リスク型である場合(ホモ接合型)に比べて、リスク型を各領域で少なくとも一つ持つ場合(ヘテロ接合型あるいはホモ接合型)は6.00倍のオッズ比(95%信頼区間4.22-8.55)を示すことが分かりました(図2)。さらに、IL12BのSNPをリスク型で持つ場合は、高安病の疾患活動性が高いこと、高安病の重篤な合併症である大動脈弁閉鎖不全症を持つ割合が高いこと、さらに、大動脈弁閉鎖不全症を持つ患者さんだけに注目した場合にIL12BのSNPをリスク型で持つ患者さんが重篤であることを見出しました。
(左)図1:GWAS結果。各染色体上のSNP(X軸)と関連の強さ(Y軸)、(右)図2:IL12BとHLA-B*52:01の相互作用。(Terao C, Yoshifuji H, et al, Am J Hum Genet. 2013 in pressより)
本研究の意義
高安病の研究がこれまで難しかったのは、患者さんが比較的少なく、検体を集めにくいという点にありました。本研究は、希少疾患であっても国内施設の力を合わせ、患者会と協力して多数の検体を集めれば、世界で初めて原因に迫ることが出来ることを示した点に大きな意義があると考えています。IL12BのSNPはこれまで他の自己免疫性疾患で行われたGWASによって見つかった遺伝子に比べてオッズ比が高く(1.75,95%信頼区間1.42-2.16)、そのHLA-Bとの相互作用や臨床病型との関連は、IL12Bが高安病の中心的役割を果たす遺伝子であることを示しています。IL12B領域は他の自己免疫性疾患である乾癬や炎症性腸疾患、さらに感染症との関連を報告されており、本研究成果は、高安病が他の自己免疫性疾患や感染症とメカニズムを共有していることを示唆するものです。このことは、他の疾患の研究・診断・治療のアプローチが高安病にも適用できる可能性を示しています。このように、本成果は高安病診断や治療に役立つことが期待されます。また、本成果によって高安病の病態が明らかになり、研究がより進展することが期待されます。本研究グループは今後、IL12Bと高安病の関連の詳細な研究を進めるほか、さらなる関連遺伝子の発見を目指して研究を行う予定です。
本研究は、京都大学医学部附属病院、東京医科歯科大学、東京大学、新潟大学、東京女子医科大学などとの多施設共同研究です。
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1016/j.ajhg.2013.05.024
著者名
Terao C, Yoshifuji H, Kimura A, Matsumura T, Ohmura K, Takahashi M, Shimizu M, Kawaguchi T, Chen Z, Naruse KT. Sato-Otsubo A, Ebana Y, Maejima Y, Kinoshita H, Murakami K, Kawabata D, Wada Y, Narita I, Tazaki J, Kawaguchi Y, Yamanaka H, Yurugi K, Miura Y, Maekawa T, Ogawa S, Komuro I, Nagai R, Yamada R, Tabara Y, Isobe M, Mimori T, Matsuda F.
論文名
Two susceptibility loci to Takayasu arteritis reveal a synergistic role of the IL12B and HLA-B regions in a Japanese population. Am J Hum Genet. 2013 (in press)
- 京都新聞(7月5日 24面)、日刊工業新聞(7月5日 17面)および日本経済新聞(7月9日 38面)に掲載されました。