ダストに埋もれた銀河の「人口調査」

ダストに埋もれた銀河の「人口調査」

2013年5月31日


左から廿日出特別研究員、世古大学院生

 廿日出文洋(はつかでぶんよう) 日本学術振興会特別研究員(理学研究科)、 太田耕司 理学研究科教授、世古明史 同大学院生の研究グループと、矢部清人 国立天文台研究員、秋山正幸 東北大学理学研究科准教授らの研究グループは、アルマ望遠鏡による観測から、これまでほとんどが正体不明だった宇宙からのミリ波信号のおよそ80%の起源が微小な固体粒子(ダスト)を豊富にもつ銀河だったことを明らかにしました。研究チームは、アルマ望遠鏡を用いて、くじら座の方向にある「すばる/XMM-Newton深探査領域」と呼ばれる領域を観測し、アルマ望遠鏡の高い感度と空間分解能を生かした観測の結果、これまで見つかっていなかった非常に暗い銀河を15個発見することに成功しました。また、ミリ波帯で従来よりも約10倍暗い銀河の個数密度を計測することにも成功しました。その個数密度が銀河形成の理論予測とよく一致していることから、今回の観測では、これまで検出できなかった、より一般的な銀河に近い種類の銀河を捉えていると考えられます。

 本研究成果は、米国科学誌「The Astrophysical Journal Letters」に5月14日付のオンライン上にて公開され、6月1日付にて印刷版として出版されました。


図1:SXDS領域の可視光画像+3領域の拡大図

観測した20領域のうち、3領域に対して、これまでの観測とアルマ望遠鏡による観測の違いをイラストで表している。

研究の背景

 宇宙における星や銀河の形成過程の解明は、天文学における最も大きな課題の一つです。遠方宇宙に存在する銀河の研究は、これまで、主に可視光近赤外線を使って進められてきました。しかし、可視光や近赤外線は宇宙にあるダストによって大きく吸収を受けるため、今までの研究では宇宙に存在する銀河の多くが見逃されている可能性があります。そこで重要なのが、ミリ波やサブミリ波での観測です。ダストに吸収された星の光は、ミリ波・サブミリ波としてダストから再放射されます。そのため、ミリ波・サブミリ波を用いることによって、今までの観測では見逃されていた銀河を検出することができます。また、ミリ波・サブミリ波には、他の波長と比較して遠くの銀河を効率よく見ることができるという特徴があり、遠方の銀河の観測に適しています。

 1990年代終わりから、ミリ波・サブミリ波を用いた遠方宇宙の探査が行われるようになりました。その結果、ミリ波・サブミリ波で非常に明るい銀河が、新しい種類の銀河として発見されました。この新種の銀河は、ダストに厚く覆われた巨大な銀河で、年間数百個から千個という非常に活発な星形成活動を行っていることが分かってきました。このような銀河は、特殊な種類の銀河と考えられています。宇宙に存在する銀河の全体像をとらえるには、穏やかな星形成活動を行っている「一般的な銀河」も観測する必要があります。しかし、既存の観測装置では感度に限界があるため、暗い銀河を検出することができませんでした。

研究の成果

 研究チームは、初期科学運用が開始されたアルマ望遠鏡を使って、くじら座の方向にある「すばる/XMM-Newton深探査領域」と呼ばれる領域を観測しました。その結果、これまで見つかっていなかった非常に暗い銀河を15個発見することに成功しました。廿日出特別研究員は「このような観測が可能になったのは、世界最高を誇るアルマ望遠鏡の性能のおかげです」と語っています。

 今回の観測では、ミリ波帯ではこれまでで最も暗い天体の個数密度を計測することに成功しました。図2は、検出された天体の明るさごとの個数密度を表示したものです。これまでの結果と比較して、約10倍も暗い天体の個数まで描き出しています。

 銀河形成の理論予測と比較すると、観測結果とよく一致していることがわかりました。これにより、今回の観測では、ダストが豊富に存在する銀河ではあるが、今まで検出できなかった、より一般的な銀河に近い種族を捉えていると考えられます。太田教授は今回の研究成果について「ミリ波・サブミリ波で特別に明るい銀河と、一般的な銀河をつなぐ天体が検出されたことで、銀河進化の全体像に迫る大きな一歩になりました」とコメントしています。


図2:今回の観測で見つかった銀河の明るさごとの個数密度(赤)

これまでの観測(青)と比較すると、約10倍暗い銀河までとらえている。曲線は、銀河形成理論の予測

 さらに本研究から、ミリ波・サブミリ波帯での宇宙背景放射のおよそ80%の起源は、今まで検出されなかった、より一般的な銀河だと示唆されます。ミリ波・サブミリ波帯では、過去の人工衛星による観測から、宇宙からやってくる信号の総和はわかっていました。しかし、空間分解能が足りず、その正体は10~20%程度しかわかっていませんでした。

今後の展望

 今回の観測により、今まで見えなかった暗い銀河を検出することができました。しかし、宇宙に存在する銀河の全体像を解明するには、さらに高感度な観測が必要です。今回の結果はアルマ望遠鏡のアンテナの一部、23~25台を用いた観測で得られたものですが、アルマ望遠鏡は今後さらにアンテナ数を増やし、観測能力を向上させていきます。また、アルマ望遠鏡を使ってさらに暗い銀河の観測を行うとともに、星形成活動やダスト量などを詳しく調べ、銀河進化の全体像を明らかにしたいと考えます。また、太田教授は「我々は、ダストに吸収されて暗くなっている銀河の姿を探るため、すばる望遠鏡による可視・近赤外線での追究観測も予定しています。しかし、非常に暗い銀河については、より大きな集光力を持つ30m望遠鏡が必要になるかもしれません」とコメントしています。


2012年12月に撮影されたアルマ山頂施設(AOS)空撮写真。標高5000mのチャナントール高原に直径12メートルと7メートルの二つの大きさのアンテナが並んでいる。(Credit: Clem & Adri Bacri-Normier (wingsforscience.com)/ESO)

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1088/2041-8205/769/2/L27

Bunyo Hatsukade, Kouji Ohta, Akifumi Seko, Kiyoto Yabe, Masayuki Akiyama.
Faint End of 1.3 mm Number Counts Revealed by ALMA.
The Astrophysical Journal Letters, 769(2), L27 (2013)

 

  • 京都新聞(6月1日 3面)に掲載されました。