2013年1月31日
左から山本特定助教、田中准教授
山本真也 霊長類研究所特定助教、Tatyana Humle Kent University(英国)講師、田中正之 野生動物研究センター准教授らの共同研究グループは、チンパンジーが道具使用「テクニック(技法)」を観察によって学習し、他者が見せる効率の良いテクニックへと方略を改善させることを明らかにしました。
本研究成果は、日本時間2013年1月31日午前7時(米国太平洋時間30日午後2時)に米国科学誌「PLoS ONE」誌に掲載されました。
概要
霊長類研究所で行った実験で観察された道具使用は、ストローでのジュース「吸い」と「浸し釣り」の2つです。どちらも同じ道具(シリコンチューブ)を使い、同じ場所(壁にあいた直径1cmの穴)で同じ対象(ジュース)に対して行われる「テクニック」ですが、効率が大きく異なります(「吸い」:容器内の50ccを30秒以内、「浸し釣り」:1試行10分間で最高でも20cc)。9個体を個別にテストしたところ、4個体は「吸う」テクニックを、残る5個体は「浸し釣る」テクニックをみせました。そこで、この「浸し釣る」5個体を「吸う」モデルとペアにしたところ、最終的にすべての個体がより効率の良い「吸う」テクニックを観察して学習しました(4個体はチンパンジーモデルを見て、1個体はヒト実験者が「吸う」のを見て学習)。
本研究のポイント
この研究のポイント(先行研究と異なる点)は、(1)単純な模倣戦略(刺激強調)では説明できないテクニックの社会学習、(2)効率のよいテクニックへの改善、の2つです。
ストローでジュースを飲む2つの技法:「吸う」と「浸し釣る」。「浸し釣る」とは、ストローチューブをジュース容器に抜き挿しし、先に付いたジュースをなめる行動のこと。どちらの技法も「同じ道具」で「同じ対象」に「同じ場所」で行われるのがポイント。この写真のチンパンジーは、この後、ストローを引き出して先端をなめる「浸し釣り」を見せた。
社会学習によるテクニックの改善は、ヒトに特有であると考えられている累積文化進化の基盤として重要な役割を果たすと考えられます。テクノロジーの発展にみられるように、ヒトでは、ベースとなる行動からよりよい技法が編み出され、それが個体間に広まって文化が発展していきます。このような累積文化進化の認知的基盤をチンパンジーが持っていることが示唆されました。
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0055768
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/169556
論文タイトル
Basis for cumulative cultural evolution in chimpanzees: social learning of a more efficient tool-use technique
著者名
Yamamoto Shinya, Humle Tatyana, Tanaka Masayuki
掲載誌
PLoS ONE 8(1): e55768
- 朝日新聞(1月31日夕刊 12面)、京都新聞(1月31日夕刊 9面)、産経新聞(2月19日 21面)、中日新聞(1月31日夕刊 10面)、日本経済新聞(1月31日夕刊 18面)、毎日新聞(2月1日夕刊 9面)および読売新聞(2月1日 33面)に掲載されました。