チンパンジーにも「黄色い」声!?-チンパンジーにおける共感覚的知覚の発見-

チンパンジーにも「黄色い」声!?-チンパンジーにおける共感覚的知覚の発見-

2011年12月6日


左から松沢教授、足立助教

 松沢哲郎 霊長類研究所教授、足立幾磨 附属国際共同先端研究センター助教らの研究グループは、初めてヒト以外の霊長類が共感覚的知覚を持つことを示しました。この成果は、12月5日~12日の間に米科学アカデミー会報のオンライン版に掲載されます。

研究の概要

 「黄色い声」という言葉が日本語にはある。また、スペイン語には「白い声」、ドイツ語には「暗い声」という表現がある。このように、声に対して色を表す言葉で修飾することは広く見られる。また面白いことに、その多くが声の高さを形容するものである。こうした表現からもわかるように、我々ヒトは、高い音には明るい色を、低い音には暗い色を結びつける傾向がある。このような、本来は関係のない、視覚情報の特定の特徴(eg. 色)と特定の音声の特徴(eg. 音の高さ)の間に、対応付けをおこなうことを共感覚的知覚と呼ぶ。この対応関係は、自然界に実際に存在するわけではないにもかかわらず、多くの人に共有された知覚様式であることはとても興味深い。言語学者や心理学者たちを中心に、この共感覚的知覚がなぜ生じるのかについて、大別して二つの可能性が議論されている。(1)(おそらく)生得的な脳の神経間の結合により引き起こされる知覚様式、(2)言語や文化との相互作用により獲得された知覚様式、の二つの可能性である。

 本研究では、言語を持たないチンパンジーを対象にこの共感覚的知覚が生じるのかを分析することで、上記の議論に新たな知見を与えるものである。まず、訓練では白色か黒色の四角が画面に一瞬だけ呈示され(見本)、その後両方の色の四角が選択肢として呈示された(図1)。被験体は、最初に見た色を選択肢から正しく選ぶことで報酬を得ることができた。この課題を被験体が学習したのちに、テストに移った。テストでは、見本に200ms先行し、高・低いずれかの聴覚刺激(高ピッチ音:1047Hz、低ピッチ音:174Hz)を呈示した。もし、チンパンジーがヒトと同様に高い音に対し明るい色を、低い音に対し暗い色を連想するのであれば、その後の選択場面において、当該の明るさに対し、より注意が向きやすくなると考えられる。実験の結果、同手続きでテストしたヒトは、白色が正解時に高音を聞いたとき、および黒色が正解時に低音を聞いたときに(一致条件)、そうでない組み合わせ(不一致条件)よりも反応時間が短くなった。一方でチンパンジーにおいては、反応時間には条件間に差が認められなかったものの、不一致条件時に一致条件時よりも正答率が低下することがわかった(図2)。すなわち、両種ともに、共感覚的知覚(音の高さと明るさの対応づけ)をおこなうことがあきらかになった。

 これにより、音の高さと明るさの間の共感覚的知覚は、言語や文化との相互作用を必要とせず、脳の神経感の結合によってもたらされるものであり、さらに、その起源がヒトとチンパンジーが進化の道を別った500~600万年前にまで遡る可能性が示唆された。ただし、本結果は共感覚的知覚に対する言語の影響を否定するものではなく、今後様々な共感覚的知覚を比較分析することで、言語の進化の道筋がより明らかになるであろう。そのための方法を示した上でも本研究は非常に重要である。

   

  1. 図1: 各試行の流れ

   

  1. 図2: ヒトとチンパンジーの成績。上段に誤答率、下段に反応時間
課題を行うヒトとチンパンジー

関連リンク

  • 論文は以下に掲載されております。
    http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1112605108
  • 以下は論文の書誌情報です。
    Ludwig VU, Adachi I, Matsuzawa T. Visuoauditory mappings between high luminance and high pitch are shared by chimpanzees (Pan troglodytes) and humans. Proc Natl Acad Sci U S A. published ahead of print December 5, 2011, doi:10.1073/pnas.1112605108

 

 

 

  • 朝日新聞(12月6日 37面)、京都新聞(12月6日 28面)、産経新聞(12月6日 24面)、中日新聞(12月6日 28面)、日本経済新聞(12月6日 34面)、毎日新聞(12月6日 27面)および読売新聞(12月6日 35面)に掲載されました。