ファーストスターは太陽の40倍の重さ-コンピュータ中に再現された宇宙最初の星の成長過程-

ファーストスターは太陽の40倍の重さ-コンピュータ中に再現された宇宙最初の星の成長過程-

2011年11月11日

 細川隆史 元理学研究科研究員 (現 日本学術振興会海外特別研究員)、大向一行 理学研究科准教授、吉田直紀 東京大学准教授、NASAジェット推進研究所のハロルド・ヨーク博士の4名による研究チームは、宇宙最初の星・ファーストスター(初代星)が生まれて成長していく過程のコンピュータシミュレーションを初めて行い、最終的に太陽のおよそ40倍の重さの星ができることを示しました。

 本研究成果は米科学誌Science誌において特にインパクトの高いものと推薦され、11月11日(日本時間)にScience電子速報版に掲載されました。

【論文タイトル】
Protostellar Feedback Halts the Growth of the First Stars in the Universe
(和文:原始星フィードバックは宇宙初代星の成長を抑制する)

研究の概要

 現在、初代星はビッグバンから数億年後に誕生し、その最初の姿は太陽の1/100程度の星の赤ちゃん~原始星~であったことが広く受け入れられています。しかし、これは実は星形成のほんの始まりにすぎません。この後、原始星はまわりのガスを重力によりどんどん集めて、星は大きくなっていきます。

 今回私たちはこの星の赤ちゃんが成長して、核融合反応によるエネルギーによって自ら光る一人前の星ができるまでの約10万年にわたる進化を初めてコンピュータ中に再現しました。私たちの目にした初代星成長の様子は、とてもダイナミックで驚きにあふれたものでした。原始星が太陽の20倍程度の重さになると、星の出す光、つまり明るさは実に太陽の10万倍にも達します。この宇宙最初の星からの光は星周辺のガスを温め、ガスが星に降り積もるのを妨げようとします。最後にはガスは外側に流れるようになり、星の成長は完全に止まります、そして太陽の40倍の重さの星が残りました。

 これまで長い間、初代星は太陽の数百倍という現在の宇宙にはほとんど見られないような巨大な星と思われてきたのですが、今回の研究で発見された、いわば成長の自己抑制機構によってそのようなモンスター星にはならないことが分かったのです。

 これは未だ私たちの観測の及ばないはるか太古の宇宙での出来事ですが、実は私たちの手の届くところにも初代星の痕跡があります。銀河に存在する最も古い星々をくわしく観測すると、初代星が死を迎え超新星爆発を起こしたときにまき散らされる様々な元素の存在量を知ることができます。最新の観測は宇宙最初の星は太陽の数十倍であったことを示唆していて、宇宙最初の星がモンスター星であったとのこれまでの理論的予想との食い違いが謎とされていました。私たちのシミュレーションにより観測結果と一致する初代星形成の描像を初めて得ることができました。初代星形成の理論を大きく前進させ、将来の宇宙望遠鏡や地上大型望遠鏡を用いた観測計画に重要な示唆を与える成果です。

 図1: 星周囲のガス構造
4つのパネルは時系列を表しており、原始星誕生後の経過時間、そのときの星質量がパネル中に示されています(1天文単位は地球と太陽間の距離に相当し、およそ1億5千万キロメートル)。
各パネルの左半分が温度、右半分が密度分布を表しており、2万年ごろから高温の光電離領域(星からの光によってプラズマ状態になった領域)が広がっていくのが分かります。
星の近くにこうした高温の領域が広がっていくことで、ガスが星に降り積もるのが止められるのです。
 図2: 原始星誕生から3万年後の星周囲ガスの詳細構造
色が温度分布(赤色が高温ガス、青色が低温ガスを表す)、コントア(等高線)が密度分布を表しています。
左図の中心部を拡大して示したのが右図です。
右図では星の周りに水素分子ガスの円盤があり、円盤と垂直方向に光電離領域が広がっているのが分かります。

関連リンク

 

  • 京都新聞(11月11日 25面)、産経新聞(11月11日 29面)および日本経済新聞(11月11日夕刊 16面)に掲載されました。