強磁性鉄酸化物の合成に成功~安価で強力な酸化鉄磁石の創製につながるか~

強磁性鉄酸化物の合成に成功~安価で強力な酸化鉄磁石の創製につながるか~

2011年11月8日

 林直顕 学際融合教育研究推進センター 次世代低炭素ナノデバイス創製ハブ拠点主任高度専門技術職員、高野幹夫 物質-細胞統合システム拠点特定拠点教授、陰山洋 工学研究科教授と、東京大学、日本大学、物質・材料研究機構との研究グループは共同で、強磁性を示す鉄酸化物、立方晶ペロブスカイト型BaFeO3(三酸化鉄バリウム)の合成に成功し、ドイツ有力化学誌「アンゲバンテケミー(Angewandte Chemie, International Edition)」に論文が掲載されました。

掲載論文名「BaFeO3: A Ferromagnetic Iron Oxide」(和訳「BaFeO3(三酸化鉄バリウム):強磁性鉄酸化物」)

研究の概要

 人類の知る最古の磁石は、鉄酸化物の一種である磁鉄鉱(マグネタイト、Fe3O4)でした。これに始まり、以降、おびただしい種類の磁性鉄酸化物が合成され、現代の私たちの身の周りで大いに役立っています。物質の磁気的性質は、そこに含まれる金属原子やイオンが持つ磁化(スピン)の大きさと並び方により決まります。鉄は、酸化物中では、複数の酸素イオンに囲い込まれた+3価あるいは+2価のイオンとして存在しています。隣り合う鉄イオンは、間にはさまる酸素イオンを介して(-Fe-O-Fe-)、磁気的な相互作用をしますが、残念ながら、それはそれぞれのスピンを互いに逆に向けて打ち消し合う性質のものであり、これを反強磁性相互作用と呼んでいます(図1(a))。

 この打ち消し合いが完全であれば、酸化鉄は磁性材料として利用できないはずですが、何らかの原因(スピンの大きさのアンバランスや多い少ないのアンバランスなど)で打ち消し合いが不完全な場合があります。今までに利用されてきた酸化鉄磁石は、このような相殺されずに生き残ったスピンを利用するものでした(図1(b))。+3価であっても+2価であっても鉄イオンそれぞれがもつスピンは大きいのに、その大部分が打ち消し合ってしまうので、生き残ったスピンを全鉄イオンの個数で割った平均値は小さなものになってしまいます。我々の利用する鉄酸化物は、このようなもったいない状況にあるものばかりです。もし、それらが互いに打ち消し合うことなく向きをそろえる状態(強磁性状態)になれば強力な磁石になる可能性があります(図1(c))。

 今回我々は、新しい鉄酸化物、立方晶型BaFeO3(Ba:バリウム。磁性にかかわる元素は鉄のみ)の初合成に成功し、0.3テスラ程度の小さな磁場をかけるという手助けをしてやると、スピンの大きさの活きる「強磁性」状態になることを見いだしました。つまり、BaFeO3は、鉄酸化物は全て反強磁性というこれまでの常識を破るニューフェースであると言えます。また、もう一つの大切な特徴はそこに含まれる鉄イオンの価数が+4まで高くなっていることです(Ba2+Fe4+O2-3)。この価数の高さと磁性の特異さは深く関連しています。

 これまでも異常高原子価状態である+4価の鉄イオンを含む鉄酸化物は、少数ながら知られており、これらの合成には5万気圧程度の高い圧力の下で1000℃程度まで加熱するような極端な条件が必要とされてきました。しかし、BaFeO3はこの方法では得ることができません。我々は、新しく開発したオゾン酸化法を含む二段階の合成経路により、1気圧下で合成に成功しました(図2)。+4価の高い状態にある鉄イオンは、周囲にある酸素イオンから電子を強く引き込む力を発揮します。これが、-Fe-O-Fe-相互作用を反強磁性から強磁性に逆転させる原因です。BaFeO3は、キュリー温度(磁性を失う温度)が-162℃と低いことから、今後の課題はキュリー温度を室温まで高めることです。鉄は地殻に含まれる金属元素の中で圧倒的な存在量があるだけでなく、人体や環境に安全であるという優れた特徴をもっています。従って、鉄が主体となる物質から新しい機能を開発する重要性は大変大きいと言えます。

 本研究は、科学研究費補助金・若手研究B「オゾンプロセスによる新物質の合成と物性(22750050)」、基盤研究A「鉄の平面四配位を基盤とした新物質探索と室温機能性の創製(22245009)」の支援により行われました。

関連リンク

  • 論文は以下に掲載されております。
    http://dx.doi.org/10.1002/ange.201105276
  • 以下は論文の書誌情報です。
    Hayashi, N., Yamamoto, T., Kageyama, H., Nishi, M., Watanabe, Y., Kawakami, T., Matsushita, Y., Fujimori, A. and Takano, M. (2011),
    BaFeO3: A Ferromagnetic Iron Oxide. Angewandte Chemie.
    Article first published online : 7 NOV 2011, doi: 10.1002/ange.201105276

 

 

  • 京都新聞(11月15日 10面)および日刊工業新聞(12月1日 21面)に掲載されました。