腸内細菌の制御と腸管粘膜防御には抗体遺伝子の体細胞突然変異が必要である

腸内細菌の制御と腸管粘膜防御には抗体遺伝子の体細胞突然変異が必要である

2011年1月24日


左から本庶客員教授、新藏礼子 長浜バイオ大学教授、
魏民 元日本学術振興会特別研究員/
現中国東北師範大学生命科学カレッジ准教授

 本庶佑 医学研究科客員教授らの研究グループの成果が科学誌「Nature Immunology」の電子版に掲載されました。

研究の概要

 抗体が生体防御に効率良く働くためには、体細胞突然変異によって獲得する抗原に対する結合力の増強とともにクラススイッチによって産生されるIgAやIgGの抗原への攻撃力の両者が重要であるといわれている。ヒトのIgA欠損症では自己免疫疾患やアレルギー、炎症性腸疾患などの病態が報告されている。IgA欠損による腸管バリア機能低下のため腸内細菌が免疫細胞を過剰に刺激して、免疫機能の恒常性破たんを惹き起こしていると考えられている。現在までIgA欠損マウスやヒトのIgA欠損症の研究からクラススイッチが生体防御に重要であることは明らかだが、体細胞突然変異だけが障害されたマウスやヒトの症例は現在まで報告がなく、その重要性をはっきりと示した例はなかった。マウス腸管のIgA産生細胞の抗体遺伝子を調べると、週令とともに体細胞突然変異が蓄積しており、多くの抗原に過去に出会って反応してきた結果であることがうかがわれる。ところが、腸管のIgAは抗原特異性が低く多種類の抗原に反応して粘膜バリアの最前線防御に働いていると考えられており、突然変異の蓄積は重要と考えられていなかった。

 クラススイッチと体細胞突然変異は異なる抗体遺伝子変異をもたらすにもかかわらず、両者とも酵素activation-induced cytidine deaminase (AID)が必須であり、体細胞突然変異だけを分離して解析することが不可能だった。しかし、今回、われわれは体細胞突然変異だけが特異的に障害されるAID変異体を見つけ、その変異体の一つ(G23S)のノックインマウスを作製した。

 G23Sマウスでは正常量の腸管IgAが産生されるが、腸管IgAを産生することができないAIDノックアウトマウスと類似したパイエル板などの胚中心の過形成が観察された。この病態は抗生物質投与で改善することから、異常に増殖した腸内常在細菌が胚中心B細胞を過剰に刺激した結果と考えられた。つまりIgAがあるだけでは十分でなく、体細胞突然変異の蓄積により高親和性を獲得したIgAが腸内細菌叢の制御に重要であることがわかった。さらにG23Sマウスでは野生型マウスに比べ経口コレラ毒素に対する防御の低下が見られ、はじめて出会う病原体に対する防御においてもIgAの体細胞突然変異の蓄積が重要であることが明らかになり、腸管粘膜面の第一線防御での体細胞突然変異の重要性がはじめて明確になった。

関連リンク

  • 論文は、以下に掲載されております。
    http://dx.doi.org/10.1038/ni.1991
  • 以下は論文の詳しい書誌情報です。
    Wei M, Shinkura R, Doi Y, Maruya M, Fagarasan S, Honjo T. Mice carrying a knock-in mutation of Aicda resulting in a defect in somatic hypermutation have impaired gut homeostasis and compromised mucosal defense [Internet]. Nature Immunology 2011 Jan ; advance online publication
     

 

  • 京都新聞(2月15日 9面)、日刊工業新聞(1月24日 22面)および日本経済新聞(1月24日 34面)に掲載されました。