総合学科高校における成果と課題-アンケート・聞き取り調査 等を通じての考察-
2010年3月30日
小木研究生
小木 充 研究生(教育学研究科・静岡県立浜松東高等学校教諭)は、高校教育改革として制度化された総合学科について、教育委員会、全国の総合学科高校に対して様々な角度からアンケート・聞き取り調査を実施し、総合学科の成果と課題を検証しました。
総合学科高校における成果と課題の検証
第14期中教審では、新しい時代に対応する教育の実現として高校教育改革が議論され、このパイオニアとして総合学科が制度化された。本研究では、各自治体が統廃合に伴う高校再編整備計画の中、どのような意図で総合学科を導入し、各学校が総合学科をどのように展開させたのか、制度の特性に着目して調査をした。
今までの総合学科の研究の多くは、悉皆調査による総合学科全体像に迫る分析であった。本研究では総合学科について、進学実績・学校規模・他学科併設校・定時制課程・前身校等の視点に着目して分析、個別的な総合学科の成果と課題を検証した。
調査対象
- 12府県の教育委員会高校教育課、高校再編整備担当への聞き取り調査
- 2008年度までに設置の全国334校の総合学科高校の管理職1人・課長3人に対する質問紙調査(回答227校)
- 総合学科16校への聞き取り調査
調査内容
- 12府県の教育委員会高校教育課、高校再編整備担当への聞き取り調査から掴んだ傾向
- 大都市部を抱える高校数の多い自治体は、生徒急増期に増設した普通科の多様化のために総合学科を導入した傾向にある。
- 普通科からの総合学科改編では、課題を抱える普通科の特色づくりといったように、教育改革の色彩が強まる傾向にある。
- 西日本の多くの県では、単科高校として定員割れを来す傾向にあった普通科や商業科からの総合学科改編が目立つ。以上の学科を改編させ、総合学科の中で、普通教育や商業教育を保障し展開していく等の方向性の含意もある。
- 専門学科伝統校や男女別学校・地域唯一の高校といったように、伝統校や希少価値の高い高校の再編整備の対象に、総合学科改編が実施される傾向にある。
- 過疎・僻地地域においては「間口の広い多様な教育」と「スペシャリストの育成といった専門学科教育」の両面の役割を担わせる意図をもって、総合学科を導入している事例が見られる。
- 入試制度の改編と総合学科の連関性が窺える。
- 再編整備計画策定および総合学科導入については以下の3通りが確認できた。
A 教育委員会主導型で計画策定・総合学科導入が実施されるケース
B 計画策定・総合学科導入について地域協議会等で具体的な部分まで論議され、地域からのコンセンサスを得るケース
C 学校改革のために、自ら総合学科改編の希望を表明した学校について、教育委員会が導入を決めるケース
- 2008年度までに設置の全国334校の総合学科高校に対する質問紙調査結果
- 総合学科の教育効果についての肯定は、管理職70%、教員49%である。また各高校の実績について肯定的な回答は、管理職では学力面60%・進路実績面61%・モラル面66%、教員では学力面50%・進路指導面43%・モラル面51%である。
- 多くの回答で、進学実績の高い総合学科と定時制総合学科では対照的であった。特に学校生活面でその傾向が顕著である。生徒の科目選択行為については、進学型総合学科以外の総合学科で「友人が選択している科目」「単位取得が容易そうな科目」「安易な科目選択」等の回答が多い。偏差値偏重打破の理念を掲げている総合学科であるが、総合学科も地域の偏差値序列の中に位置づけられている可能性は高い。
- 総合学科の小規模校では、科目開講や教育課程の運用面の課題を抱える傾向が強い。
- 他科および他部乗り入れに積極的でない併設校や定時制において、教育課程が狭隘にならざるを得ない。
- 教育課程の見直しは、年数が経過した総合学科ほど、科目数減少・系列組み直し・減少といった精選させる傾向が強い。
- 教育課程の見直しは、系列にとらわれない自由な科目選択の指導をしている学校ほど、他と比べて科目数を増やす等の傾向が見られる。このため、教育課程の多様化を志向している可能性も推察される。
- 総合学科の教育評価について
- 系列重視の選択指導をする学校よりも、自由な科目選択を重視する学校で評価が高い。
- 専門学科が前身校の学校よりも、普通科が前身校の学校で評価が高い。
- 定時制総合学科や小規模校・他学科が併設の総合学科よりも、進学型総合学科や年数が経過した総合学科で評価が高い。
- 農業系列の学びと進路先のミスマッチは大きい。
- 職業科目担当の教員では、総合学科の学びの特徴について「体験的」が否定的で、「安易な選択」が肯定的な傾向にある。
- 「職業科目」と「職業科目以外」の教員で比較すると、「職業科目」の教員は総合学科の教育効果を低く評価している。
- 総合学科16校への聞き取り調査
- 総合学科の理念を生かした事例
- 過疎および僻地地域に立地している特徴を生かし、地域密着型の教育を志向し、地域の社会人講師や地元大学等の外部教育力を導入しキャリア教育を展開させている。
- 専門学科の定時制からの改編であるため、多様な学びの提供が可能となった。また、主に専門学科における教科指導上の安全教育の必要性が減った。このため、多様な生徒の受け入れや生徒募集枠の拡大に繋がった事例
- 定時制として多様な生徒の受け入れのため、教育委員会の施策に則った学校経営を進め、多様な学びを展開している事例
- 総合学科の特色ある学びのため、県内総合学科の横のつながりを形成し、より発展的な総合学科教育を目指している事例
- 特色ある入試制度や推薦制度を活用しながら、学校が望む進学者像を獲得していき、学校改革を果たした事例
- 総合学科の制度を生かした事例
- 小規模校において総合学科加配を得ることで少人数教育等の手厚い教育を展開できる。
- 定員割れを来した前身専門学科高校の学びについて、総合学科の括り募集的な制度を活用して存続させた事例
- 自由選択枠や少人数指導等を活用して対受験体制を組んだ事例
- 統廃合の対象の高校が、地元の強い後押しを受け総合学科改編による存続が決まった。総合学科改編後、生徒獲得が容易となり大きく学校が刷新した。今後は地域産業界のニーズや教科科目の専門性を目指すといった理由から、総合学科の一部の系列が専門学科に転科する計画のあがっている事例
- 総合学科運用が困難な事例
- 前身校のブランドを払拭できないでいる事例
- 課題困難な生徒を抱えており総合学科としての機能が十分に活用できないでいる事例
- 「進学対応型の普通科教育」「スペシャリスト育成としての専門学科教育」といったセクショナリズムに基づく、「新しい学びの総合学科」への抵抗感
- 依然根強い普通科志向の教育需要のため、総合学科から普通科に学科改編する事例
- 総合学科の理念を生かした事例
総合学科の理念と現実の乖離
- 普通科と総合学科の制度的不平等を生んだ点
進学実績の高い総合学科において、上級学校の教育ニーズの高まりから教育課程の精選を余儀なくされた学校もある。この学校の学校説明会では、以前まで「何でも学べる高校」とPRしていたが最近は「進学に対応でき、プラスして専門教育に関する科目も学ぶことができる」と説明している。或いは、質問紙調査からは、これら一部の進学型総合学科の学びの特徴を「画一化」とあげた回答も得られ、一定の学習指導の枠づけがなされていることが想定される。さらには「産業社会と人間」が受験指導面において負担になるとの回答が得られた。 - 専門学科教育の代替としての域を出ない総合学科
中山間地や離島における生徒募集が困難な地域における、募集定員を割った専門学科高校の総合学科改編への流れに繋がった。このように専門学科高校が前身の総合学科において、コース制に近い枠づけや地域の専門学科教育の代替として総合学科が位置づけられている事例を確認した。これらの高校において実績をあげてはいるのだが、総合学科の理念達成という観点では問題も残る。今次の中教審キャリア教育・職業教育特別部会では「公立学校の再編において専門学科が対象の中心となる傾向にある状況について、地方公共団体は、地域の特色を生かしつつ、職業教育の充実の観点にも改めて留意して考える必要がある」との経過報告があった。専門学科が統廃合され、総合学科に転科させている各教育委員会のスタンスに言及している。しかし、総合学科の制度としての規制的作用の点検も必要あるものと考える。
結論
教育委員会における総合学科導入および総合学科各校実践の取り組みについて成果は大きく、高校教育会改革における一実践の範を示すことができた。しかし、総合学科の理念に着目すると、制度設計上の政策誘導力がなく意図した理念を達成できていない高校もある。また多様化・特色化の進む高校教育にあって、総合学科でなければ達成できないという他学科との差異化は弱まり、また他学科との比較から、助成支援措置上の不均衡を生むという点で妥当性が低下しつつある。
- 京都新聞(4月8日 25面)、産経新聞(3月31日 3面)および毎日新聞(4月10日 24面)に掲載されました。