ヒト治療用・再生医療向け細胞搬送容器ユニットを開発

ヒト治療用・再生医療向け細胞搬送容器ユニットを開発

2009年12月18日

 前川平 医学部附属病院輸血細胞治療部教授は、株式会社日立物流(執行役社長:鈴木登夫)、株式会社日立プラントテクノロジー(執行役社長:住川雅晴)、株式会社ウミヒラ(社長:海平富男)のグループにより、ヒト治療・再生医療に用いる新型の細胞搬送容器ユニットの開発に成功しました。


海平和男 株式会社ウミヒラ専務取締役、笠井泰成 医学部附属病院主任技師、青山朋樹 医学研究科准教授、高橋稔 株式会社日立プラントテクノロジー空調システム事業本部バイオメディカルエンジニアリングセンター長、井沼俊明 株式会社日立物流技術本部本部長付、長尾里奈 医学部附属病院輸血細胞治療部大学院生

研究の概要

 現在、ヒト治療に使われる再生医療用細胞(浮遊性、細胞組織など)を、無菌状態を保持し高い品質を維持したまま離れた場所、施設まで輸送できる専用容器が存在しないため、病院施設毎に独自の搬送容器を工夫して利用している状況であった。しかし、人体に移植、輸注される細胞は、医薬品と同等の品質、安全性が必要とされるにもかかわらず、従来用いられていた搬送容器にはこれらを担保する、以下のような性能が十分に備わっていなかった。

  1. 無菌性保証
  2. 水平維持機構
  3. 定温保証

 京都大学医学部附属病院輸血細胞治療部では、2004年から分子細胞治療センターにおいてgood manufacturing practice(GMP)に準拠した細胞調製を行っており、現在、法整備が進められている細胞の病院間、施設間搬送の基盤整備に積極的に関わっている。

 また、株式会社日立製作所(執行役会長兼執行役社長:川村 隆)と日立物流は、2005年から、東京女子医科大学先端医科学研究所(所長:岡野光夫)と共同で再生医療用の培養細胞を長距離まで輸送できる細胞輸送技術の確立に向けた研究開発を進めている。その研究の中で、培養した細胞組織を定温(常温度帯)で輸送できる携帯型定温輸送容器の開発を行っており、すでに容器の定温化技術と、気圧維持(飛行中の航空機内での気圧低下に対応)の機能を保証する搬送容器の作製に成功し、再生医療用の細胞組織を遠距離に輸送する基盤を確立しつつある。

 今回、京都大学とウミヒラで作製した無菌性保証、水平維持機構を持つ密閉性の金属製内容器と、日立物流で製作した定温化機能を持つ金属製外容器(4℃で11時間の定温維持)、日立プラントテクノロジーのヒト細胞調製施設における無菌操作技術等を融合する事で、これまでにない新しい機能を満たす細胞搬送容器ユニットの開発に成功した。

 この細胞搬送容器ユニットを開発することは、今後期待される再生医療の普及・拡大、ヒト治療用の細胞輸送の安全性向上など、再生医療をより身近なものとして実現していく輸送インフラの構築にも大きく貢献していくものと期待される。

 今回開発を行った再生医療用細胞の細胞搬送容器ユニットは、京都大学が米国で主催したKyoto University Technology Show Case New York 2009にも出展され、現地で高い評価を得ている。

 京都大学では、医学研究科人間健康科学系専攻において本年10月より再生医療に用いる細胞調製、細胞調製施設の管理、法制度に習熟した人材育成を目的に「細胞育成士」養成プロジェクトを開始し、再生医療の基盤整備を進めているが、このような人材教育の場においても、今回開発した細胞搬送容器ユニットの活用が期待されている。

 

  • 京都新聞(12月19日 20面)、産経新聞(12月19日 22面)、日刊工業新聞(12月21日 15面)、日本経済新聞(12月21日 12面)および読売新聞(12月28日 16面)に掲載されました。