2009年12月10日
西村いくこ 理学研究科教授らの研究グループは、植物の気孔の数を増加させるシグナル因子を世界で初めて発見し、この研究成果が英国科学雑誌「Nature」のオンライン速報版で公開されました。
写真は左から嶋田知生 講師、大学院生 菅野茂夫氏、西村教授
研究成果の概要
図1. 葉の気孔
この孔からCO2を吸い込む
植物は大気中からCO2(二酸化炭素)を吸い込んでいます。取り込んだCO2を基にして、植物は私達の大切な食糧となるデンプンや油を作ります。植物がCO2を 吸い込むときに使う「口」に相当するのが気孔で、まさに唇のような形をしています(図1)。私達は、モデル植物シロイヌナズナの遺伝子発現データベースを用いることで、新しいペプチド性因子「ストマジェン」を発見しました。植物にストマジェンを過剰に作らせると気孔がたくさん増え、逆にストマジェンを作る能力を弱めると気孔が減ることが分かりました(図2)。このように、ストマジェンは気孔の数を調節する機能を担っており、植物の生存に大切な物質です。私達はこの因子に、気孔(stoma)を生み出す(generation)因子という意味をこめ、ストマジェン(stomagen)と命名しました。
- 図2. ストマジェン遺伝子の発現量と気孔密度の関係.
左からストマジェン発現抑制株、野生株、ストマジェン過剰発現株。スケールバーは50μm.
ストマジェンは、植物自身がもっている45個のア ミノ酸からなる小さなペプチドです。私達は、化学合成したストマジェンを含む溶液に植物を3日間つけるだけで、気孔の数が劇的に増加することを見出しました(図3)。これは、遺伝子の改変ではなく、外から物質を投与することにより気孔の数を特異的に制御することに成功した世界で最初の例となります。
- 図3. ストマジェン投与3日後の気孔(左:無処理、 右:ストマジェン2μM処理).
ストマジェンは、雑草から作物や樹木に至る多種多様な植物がもっている普遍的な因子であり、植物のペプチドホルモンとも言えるでしょう。植物に与えるだけで気孔の数が増えることから、遺伝子組み換えに頼ることなく、様々な植物のCO2吸収能力を上げることが可能になります。
現在、CO2削減が私達が抱える大きな社会問題になっていますが、本研究の成果はこの問題を解決するための鍵を与えるものです。また、CO2吸収が増えるとデンプンや油の物質生産量も上がりますので、世界的な人口増加による食糧不足問題解決への貢献も期待できます。
- 朝日新聞(12月10日夕刊 7面)、京都新聞(12月10日 26面)、産経新聞(12月10日 22面)、中日新聞(12月10日 3面)、日刊工業新聞(12月10日 23面)、日本経済新聞(12月10日 42面)、毎日新聞(12月10日 3面)および読売新聞(12月10日 2面)に掲載されました。