放射光でほぼ全てのメスバウアー吸収スペクトル測定が可能に - 元素を特定した電子構造や磁性の研究のプローブへ -

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用語解説

メスバウアー吸収スペクトル

メスバウアー効果は原子核が反跳を伴うことなく共鳴吸収を起こす現象で、1957年にメスバウアー(Mößbauer, Rudolf Ludwig)によって発見され、この業績によりメスバウアーは1961年にノーベル物理学賞を受賞しました。メスバウアー吸収スペクトルとは、放射性同位体線源から放出されたγ(ガンマ)線を、そのエネルギーを変えながら同種類の原子核を含む試料に照射し、透過してくるγ線を試料の後ろに置かれた検出器で測定した場合に得られるスペクトルです。線源からのγ線のエネルギーと試料中の原子核の励起エネルギーが等しい場合に試料の中でメスバウアー効果による共鳴吸収が起こり、スペクトル上でディップが観測されます。
メスバウアー分光法はこれまで物質科学の分野において、特に磁性体の研究を中心として精力的に利用されてきました。しかしながらそれにとどまらず、月の石の分析に用いられてきたり、火星探査機にメスバウアー分光器が搭載され火星においてそ の場で分析を行うなどの利用もなされてきました。もちろん、地球の岩石等の分析にも利用されており、さらには地球内部におけるマントル対流などのダイナミ クスを理解するために高温高圧下の鉄の状態を調べることにも利用されています。また、生物分野においても、ヘモグロビン中の鉄がどのような状態で存在するのかを明らかにするために利用されてきました。

大型放射光施設SPring-8

兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その管理運営は高輝度光科学研究センターが行っています。 SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。

核共鳴前方散乱法

原子核をパルス放射光によって共鳴励起したときに、多数の原子核が干渉して前方方向に散乱されるγ線を時間領域で測定することによって、励起準位の状態を調べる方法です。

内部転換電子

励起状態にある原子核がエネルギーの低い準位に落ちる時に、γ線の代わりに核のまわりの軌道電子が放出される現象を内部転換といいますが、このときに放出される電子を内部転換電子といいます。

蛍光X線

元素に固有なある一定上のエネルギーのX線を照射した場合、構成原子の内殻電子が励起されて生じる空孔に外殻電子が遷移する際に、このエネルギー差に相当するエネルギーのX線が放出されます。このX線を蛍光X線といいます。

準弾性散乱

散乱体が運動などをしていて時間とともにその位置を変えるような場合の散乱を準弾性散乱といいます。この場合、入射X線のエネルギースペクトルは入射エネ ルギーを中心として広がった分布を示すようになります。液体や揺らぎの大きい高分子等において観測され、その動的な性質に関する情報が得られることになります。