高い粘性の受精環境を利用した精子の運動の巧妙な仕組みを解明! - モリアオガエルの精子は回転することで前進する -

高い粘性の受精環境を利用した精子の運動の巧妙な仕組みを解明! - モリアオガエルの精子は回転することで前進する -

2009年4月9日


左から久保田 准教授、武藤 氏

 久保田洋 理学研究科准教授らの研究グループは、粘性の高い泡巣中で受精するモリアオガエルの精子の構造と運動を解析し、精子は尾部の巻きと解きの運動により周囲の粘性を利用してコルク抜き形の頭部を回転させることにより、コルク抜きがコルクに進入するように前進することを明らかにしました。

論文名

  • 「A novel mechanism of sperm motility in a viscous environment :
    Corkscrew-shaped spermatozoa cruise by spinning」
    (高い粘性環境における精子の新しい運動メカニズム: コルク抜き形の精子は回転することで前進する)

著者:

  • 武藤耕平(京都大学大学院理学研究科生物科学専攻・博士後期課程2年)
  • 久保田洋(京都大学大学院理学研究科生物科学専攻・准教授)

 本研究は大学院博士後期課程の武藤耕平さんがグローバルCOEプログラム「生物の多様性と進化研究のための拠点形成 -ゲノムから生態系まで-」の支援を受けて行われました。

研究成果の概要


図A:樹上に泡状の卵塊を産みつけるモリアオガエル
卵と精子を含む粘性の高い液体を雌と雄が足でかき混ぜること
より泡を含ませて、スポンジ状の泡巣ができあがります。泡巣は
乾燥から卵を守り、落下すればオタマジャクシの餌となります。
(自宅の庭で久保田准教授撮影)

 本州に広く分布し京都周辺にも数多く生息するモリアオガエルは、樹上に白い泡巣を作りながら産卵することでよく知られています(図A)。その精子の頭部は逆回転のコルク抜きのような形状であり、頭部と同じ太さの尾は頭部の長軸から垂直方向に延びています(図B)。受精は泡巣の中で起こりますが、泡巣の環境は水中とは異なり粘性が非常に高いため、ウニの精子のような尾の波打ち運動ではエネルギーの損失が大きくて長い距離を進めません。京都大学大学院理学研究科の大学院生 武藤耕平さんと久保田洋准教授は、泡巣中での精子の動きの直接観察や実験により、精子は尾を巻いたりほどいたりする運動により泡巣の高い粘性を利用して頭部を回転させ、コルク抜きがコルクの中に入り込むように前進していることを明らかにしました(図C)。このような粘性の高い受精環境に適応した精子の巧みな運動メカニズムは今までに報告された例がなく、新しい発見です。
  モリアオガエルの精子の尾の中には、通常は1本である軸糸と呼ばれる構造が2本存在し、その周りを約600本の微小管という繊維束が取り囲んでいます。久保田准教授のグループは、電子顕微鏡を用いた観察により、この太くて強い尾が運動するメカニズムについても新しい仮説を提唱し、このたび研究成果が米国科学誌のCell Motility and the Cytoskeleton(細胞運動と細胞骨格)オンライン版に掲載されました。

 久保田准教授は2002年に大津市にある自宅の庭にプラスチック製のひょうたん池を埋め、周辺のモリアオガエルを自然産卵させて子蛙に育て、毎年1万匹以上を自然に帰してきました。産卵数は年ごとに増えて、2008年には卵塊の数が100個に達しました。個体数が飛躍的に増えたところで、2007年の春にこの研究を始めました。


図B:モリアオガエルの精子の走査型電子顕微鏡写真
頭部は、4.5周の逆回転コルク抜き状の先端部、8周のバネ状の中間部、2周の大きなループ状の後部からなり、尾は頭部の長軸に対してほぼ垂直方向に延びだしています。

図C:泡巣の中を前進するモリアオガエルの精子
緩く巻いた尾部の運動により、頭部を反時計方向に回転させながら、コルク抜きがコルクに進入するように直進します。
  • モリアオガエルとは
    モリアオガエルはシュレーゲルアオガエルやカジカガエルと同じアオガエル科のカエルで、愛嬌のある姿と5月から6月にかけて樹上に白い泡状の卵塊を産みつけることでよく知られています。滋賀県では要注目種、大阪府では準絶滅危惧種に指定されるなど、府県により保護のランクは異なっています。京都周辺の山地では普通に見られる種ですので、京都府では衣笠山個体群のみが要注目種に指定されているだけであり、モリアオガエルの種としての指定はありません。

 

  • 朝日新聞(4月10日夕刊 9面)、京都新聞(4月10日 26面)、産経新聞(4月10日 25面)、日刊工業新聞(4月10日 22面)、日本経済新聞(4月10日夕刊 14面)、中日新聞(4月10日夕刊 3面)、毎日新聞(4月10日 23面)および読売新聞(5月12日 24面)に掲載されました。