高感度炎センサの開発に成功 火災報知機や炎立ち消えセンサへの応用で安全・安心社会の進展に寄与

高感度炎センサの開発に成功 火災報知機や炎立ち消えセンサへの応用で安全・安心社会の進展に寄与

平成21年1月22日

 京都大学大学院工学研究科 藤田静雄教授らの研究グループは、日本軽金属株式会社と共同で、酸化ガリウム半導体を用いた安価かつ高感度な炎センサの共同開発に成功しました。このセンサは、自然界に存在する光や温度の影響を受けることなく、炎の中に含まれる深紫外線を選択的に検出するもので、これまでの火災報知機における室温の上昇や湯気の影響による誤動作を避け、正確に炎の発生を検知することができます。さらに、作製プロセスが簡単で低コスト化が可能です。このことから、コンロの炎の立ち消えや火災の発生を高精度かつ正確にモニタすることによって、われわれの暮らしの安全に大きく貢献をするものであります。この研究成果は、1月20日にオンライン出版された応用物理学会欧文論文誌ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス誌において公表されました。

研究成果の概要

 この数年の間に、家庭用の火災報知機の設置が義務付けられました。家庭でも簡単に利用できる安価な火災報知機として、現状では温度の上昇を検知するタイプと煙の発生を検知するタイプが並行して用いられています。しかし、これらには性能的に十分でない部分があります。たとえば台所に設置した場合には、調理による湯気で温度上昇し、またこの湯気を火災による煙と判断し誤動作します。そのため、温度の上昇を検知するタイプでは温度が65度以上になって初めて警報を出す、といったマージンが必要となっており、火災初期に的確に警報を出すことが困難であります。さらに本年10月には、ガスコンロの立ち消え検出器の設置が義務付けられましたが、現在用いられている温度センサでは立ち消え直後にガスの供給を停止することができません。

 火災やコンロの立ち消えを初期の段階で的確に検知することは、安全な社会生活に必須であり、法律的にもセンサの設置が義務付けられています。しかし現実に用いられているセンサはコストの制限もあり、温度の上昇や煙の発生により間接的に炎の発生を検知するもので、異常が発生した初期段階において的確に検知することは困難であります。他方、炎からは自然界には存在しない波長の短い紫外線が発せられています。外界の影響を受けずにこの紫外線の発生を高感度に検知できれば、異常の発生をごく初期段階に検知することができ、暮らしの安全に大きく貢献することが期待できます。

 今回、京都大学と日本軽金属株式会社が共同で開発したセンサは、自然界に存在しない波長270nm(1mmの約1/4000)以下の紫外線を検出する性能を持ちます。そのため、炎から照射される波長250nm付近の微弱な1nW/cm2程度の紫外線に対しても十分な検出感度を持ちます。たとえば、蛍光ランプの強い照射下で、数10cm離れたライターの炎を検出するのに十分な性能があります。このような炎に含まれる紫外線を検知するセンサは従来から存在するものの、真空管方式で高価である上に、常時数百Vの高電圧をセンサ素子に加える必要がある、という問題のため一般家庭で用いるには適しません。一方、開発されたセンサは、半導体を用い、センサ素子に電圧印加する必要はありません。また、その構造は、日本軽金属株式会社で開発された酸化ガリウム単結晶を用い、表面を熱処理して紫外線の検出層を設けたものです。真空プロセスや薄膜結晶成長を用いず、基板の熱処理のみで紫外線センサを形成することで、価格を抑えることができます。そして、一般家庭にも導入可能な低コストと高性能の両立を達成しました。

 あわせて、同じ構造のセンサは、水の紫外線殺菌において水道法(平成19年3月30日改正、4月1日実施)で義務付けられた紫外線強度モニタとしても優れた特性を持つもので、安全・安心の社会へここでも貢献をなすものであります。

炎検出の様子。テスターの目盛りに注目いただきたい。

(a) 暗時、(b) 蛍光灯点灯時、(c) ライター点火時、(d)ライター消火時


グラフはそれぞれの場合における検出器からの出力(光電流)を示す。

  • 朝日新聞(1月23日 13面)、京都新聞(1月23日 25面)、日本経済新聞(2月2日 12面)および毎日新聞(1月26日夕刊 2面)に掲載されました。