謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
今年は元日から令和6年能登半島地震という非常に大きな災害が起こりました。
あらためて、お亡くなりになられた方々には謹んでお悔やみを申し上げますとともに、今なお過酷な避難生活を送られている被災地の皆さまに心よりお見舞いを申し上げます。
また、国際的には、2年に及ぶウクライナの戦乱、昨年10月以降のイスラエルとパレスチナの紛争は収束の兆しが見えません。
2024年は少しでも世界の安全と平和が戻る年になってほしいと心から願っております。
ウクライナ情勢に対しては、本学として少しでも貢献したい思いから、ウクライナ危機支援基金を立ち上げておりましたが、たくさんのご支援をいただき、一昨年に続き昨年もウクライナの学生を受け入れることができました。不安な思いをしてきた彼らが、日本の生活に適応し頑張って勉学に励んでいる様子を目の当たりにし、ほっとしているところです。イスラエルとパレスチナの紛争についても悲惨な状況が報道されておりますが、戦乱の地域を含め、できるだけ多くの留学生を受け入れる形で貢献したいと思っております。
一方で、新型コロナウイルス感染症は昨年5月に感染症法上の位置付けが5類に移行して、ようやく様々な活動が通常に戻ってきており、国際交流の再開も本格化してきたという感じがしています。
昨年には、日本とASEANの友好協力50周年を迎えましたが、ASEANやインドを含むアジアはわが国にとってますます重要な地域となってきており、歴史的にこの地域との連携に強みを持つ本学においても、長期的視野で活動を発展させ、協力関係をさらに強化していく必要があるでしょう。
現在の日本では、失われた30年とも呼ばれる経済低迷に加え、急速に少子化が進む中、我が国の大学の研究力の国際競争力と発信力の相対的な低下が、日本の科学技術立国としての将来的な成長への大きな懸念とされています。
このような状況下で、本学が研究力をさらに強化し、世界に伍する研究大学としてこれからも成長し続けていくためには、抜本的な大学の構造改革が必要であると考えています。将来にわたっての研究力強化の最重要課題のひとつは、若手研究者をどのように育成していくか、その研究活動を支援する専門人材や研究環境をどのように整えていくか、ということです。ひと言で言えば、「人への投資」ということです。若手教職員が育つことにより、これまで以上に研究のポテンシャルが強化され、それによって確固とした国際的な認知と承認を得ることが可能になると思います。
当然そのためには、安定的かつ自立的な財務基盤を確立していくということも重要です。
そういう意味で、今年は大学の構造改革の推進元年としたいと考えています。
大学が将来にむけて成長する仕組みを自ら考え進めていく体制を構築するため、すでに若手教職員にその具体案を議論していただいており、若い世代から新鮮でかつ大胆な改革案が提示されることを期待しています。
構造改革の一つの柱は事務組織改革です。複雑化を増す大学の業務運営を円滑に行うためには、複合的な課題に柔軟かつ効率的に対応しうるフラットなフロントオフィスと、その調整機能を担うバックオフィスが連携して、大学の成長を支えられる体制づくりが必要であろうと考えています。そこでは旧来の縦割りによる所掌の壁をできるかぎり取り払い、各人が自由に最大限のパフォーマンスを発揮できるオープンな環境が必須です。
この事務組織改革を進めるためには、とくに多様な人材の確保が重要です。教員だけではなく職員も職種に関わらず、性別や国籍、世代などを超えて様々な特性を備えた人材が集い、皆が安心して働ける環境を整備することが、非常に重要な要素になるでしょう。
近年では全学的に男女共同参画の取り組みを着実に進めており、その一環として昨年12月には、学童保育所 京都大学キッズコミュニティKuSuKu(クスク)を開設しました。子育て世代の教職員には、働きやすい環境を整える大きな一助になることを期待しています。
大学の構造改革は、構成員個々人の意識改革とコミットメントが伴わないかぎりその実現は困難だと思います。意識改革には相応の時間もかかるでしょうが、意識改革なしにどれだけ体制を整えても単に形だけで終わってしまいかねないでしょう。
あらゆる部門が一致協力し、様々な事柄にしなやかに対応できる、レジリエンスの高い機動的な組織を確立していくことが、大学の自立化と成長のための基礎であると私は考えています。
本年も皆さまのご協力をいただきますようお願い申し上げて、年頭挨拶とさせていただきたいと思います。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
令和6年1月9日
京都大学総長
湊 長博
(令和6年1月9日(火曜日)開催『総長年頭挨拶』より)