新年あけましておめでとうございます。
今年は卯年です。卯年の守り本尊は文殊菩薩ということで、全教職員と文殊の知恵を出し合って、今年1年を乗り切っていきたいと思います。
昨年も大変な1年でした。まずは、2月後半に始まった、ロシアによるウクライナ侵攻です。単に声明文を出すだけでは済まない、大学としてやらなければならないことをやるべきだと考え、大学間学術交流協定の締結校であるウクライナの2つの国立大学から、できうる限りの学生を受け入れるような体制を構築するよう検討を進めました。少し時間がかかりましたが、ようやく体制が整い、昨年10月の新学期までに、とりあえず14名の学生を受け入れることができました。もちろん彼らには、日本で生活するために様々な支援が必要になりますので、並行してウクライナ危機支援基金を立ち上げました。この基金には、多くの民間の有志の方々、卒業生の方々のご理解をいただき、想定をはるかに超える額が集まりました。当初来日することになっていたものの、秋以降の状況悪化のため出国することができないでいる学生がまだ何人もいますが、できることなら彼らも全て受け入れて、安心して勉強できるようにしてあげたいと思っています。
次に、やはり新型コロナウィルス感染症です。昨年もかなりの感染拡大がありましたが、そのような状況下で、我々は色々なことを勉強したと思います。それは、相手の動きが全くわからない状況で、一体どのように対処すればよいかということです。様々な方が様々な発言をされましたが、冷静に考えますと、こういうときはドグマで対応するのはかなり難しいと思います。打てる手をきちんと打ちながら、冷静に状況を見て、フレキシブルに対応していくしかない、ドグマだけで動いては過ちをおかすことがありうることを学んだと思います。もちろん、まだ感染症自体は駆逐されたわけではありませんが、1年前に比べれば状況はかなり改善しており、様々な方面から打つべき手を打ってきたことが、確実に成果として表れているのだろうと思います。まだ気は抜けませんが、引き続き、フレキシブルな対応をしていきたいと思います。また、この件については、本学では特に医学部附属病院の方々に力を尽くしていただきました。非常に感謝しております。
学内においては、昨年は創立125周年記念として、1年間にわたって様々な事業を実施しました。多くの市民の皆さんにもご参加いただき、おかげさまで大変成功裏に終わりました。基金も、経済状態が芳しくない中、目標額を達成いたしました。あらためて感謝いたします。
さて、昨年末に国際卓越研究大学構想の公募が開始され、我々としても今年はこれに果敢に挑戦していく年になります。振り返れば、1990年代半ば以降、日本は、「失われた30年」と言われるような長い停滞期に入りました。しばしば揶揄的に、思考停止などとも言われてきましたが、この間、確かに大学を含めて、抜本的な改革はほとんどなされてこなかったのではないでしょうか。学内でも、様々な改革の議論は行われてきましたが、常に財政面での「ガラスの天井」があり、何かをすれば何かを引っ込めなければならないというゼロサム改革にならざるを得ませんでした。これでは大学の成長はほとんど望めず、我々は四苦八苦してまいりました。6年ごとの中期目標・中期計画を策定し、大きな改革をする余地のないところで、何とか少しでも大学を良く、そして強くしようと頑張るしかなかったわけです。そういう意味で、今回の政府の構想は、「25年後の大学の姿を示し、大学が自立して研究を続けていくための改革を自らの力で進めるにあたって長期助成金を拠出する」という、かつてない大胆な政策であると思います。
これは、おそらく大学が本当の意味で自立的成長を遂げるための体制を作ることができる最後のチャンスであると捉え、この資金を得て、25年後のゴールに向け、自らの力で成長していくことのできる大学の形を作っていこうと、昨年来学内で議論を重ねてきたところです。
その中でも重要なのは、大学運営における教員と職員との連携の問題です。しばしば研究者は、事務的な業務が多くて研究の時間が足りない、他方、事務職員はすでに業務が手一杯でこれ以上はできない、そういう状況でお互い競り合ってきました。それも無理もない話で、これだけ仕事ややるべきことが増えて、しかしそれを実行する人員が全く増えずむしろ減らさざるを得ない、まさに財務の「ガラスの天井」があったわけです。これでは、本当の意味での成長はありえない。
まず必要なことは、きちんと大学運営に関わることのできる職員の数を増やすことです。そうしないと、職員がますます専門化していく仕事に対応していくことが物理的に不可能になります。まず人を増やし、一人一人、自分がどういう局面で大学の成長に関与できるかということを明確に意識しながら、実際にやりたいことができるという形を作らなければなりません。そのうえで、どのように事務改革を進めていくか、どのような方法が効率的かという話をしていかなければなりません。
これまでのゼロサム改革を超えられる体制を担保したうえで、教員の役割と職員の役割を明らかにし、両者が緊密に連携することにより、はじめて大学がどのように成長できるかということが議論できる状況になると思います。
我々は今、ここ2、3年の話をしているわけではありません。25年後の話をしています。25年後の新しい大学の形を目指して今から何をしていかなければならないかという議論を進めてきたわけです。そして、議論の成果をきちんとまとめて、我々が本当の意味で、自由で自立した成長を遂げることができるような大学運営を行うための改革の下準備をこれから始めていく、まさにそのスタートラインが本年であります。自立した大学として、世界の有力研究大学に伍して国際社会の中で承認を得ていくための改革のスタートであり、そのビジョンを我々は真摯に議論していきたいと思います。
本年もよろしくお願いします。
令和5年1月5日
京都大学総長
湊 長博
(令和5年1月5日(木)開催『総長年頭挨拶』より)