新年あけましておめでとうございます。
昨年は、新型コロナウイルスに振り回され、当初から様々な制約を余儀なくされました。主だった行事はほとんどできなくなり、学生はオンライン講義、新入生も大学に顔を出せない、事務職員はテレワークで勤務することになり、会議もほとんどオンラインでの開催になりました。1年が経過して、これらの運用の要領が分かってきたわけですが、これはあくまで避難措置です。よく考えると、それ以前に当たり前のように行ってきたことの中に、非常に大事なことがあったのだということに改めて気づくことがあると思います。
それは特に、人と人とのコミュニケーションに関してです。コミュニケーションは、これまで自動的にエンパシー(共感)を含んでいました。しかし、オンラインでのコミュニケーションでは、マイクとカメラを用いた聴覚と視覚のみのコミュニケーションとなります。単に情報を伝えるのみであればそれで十分ですが、我々はそれだけではなく、五感の全てを用いて様々な情報を取り入れ、それを総合してコミュニケーションを取っています。時には第六感ということもある。それがいわゆる「共有する場」というもので、「場の空気を読む」「相手を慮る」などのエンパシーを創り出します。オンラインによるコミュニケーションでは、どうしてもそれができません。
最近は、「ポストコロナ時代」という言葉がよく用いられますが、これは少しミスリーディングかもしれないと思います。ポストコロナの新しい時代は、この様なコミュニケーションでいいのではないかと誤解されかねません。これが常態でいいというのはやはり間違いで、基本的に我々は、本来の我々のコミュニケーション機能が最大限発揮できるプレコロナの時代に戻ることが先決で、まさにそのためにこそ今、感染抑止と収束に全力を尽くすべき時です。コロナ感染症はやはり怖いものです。なんとかしてプレコロナの状態に戻ったときに、我々はそれまで普通であったことがどれほど大事であったかということに気がつくのだろうと思います。
さて、この様な状況の中、令和3年は、大学にとってどの様な年になるのでしょうか。政府では、国立大学改革が非常に積極的に進められています。特にこの度の主な対象は研究大学であり、日本の研究大学が世界の主要な研究大学と比べて非常に遅れを取っていることへの危機感が、今の政府にはあります。我が国を代表する研究大学としての京都大学が、これからどの様な動きを見せるか、どの様な成長戦略を提示するか、非常に注目されています。
その意味で、今年は重要な年になります。キーワードは3つあります。1つ目が「大学の自律性」、2つ目は「大学の機能拡張」、3つ目が「多様性の拡大」です。この3つのキーワードを実現するために何が必要か。それにはまず大学のインフラを強くすることです。国立大学の改革を求められたときに、まず行わなければならないのはインフラをきちんと整備強化しておくことです。そのうえで研究大学として、我々が個別の成長戦略を打ち出せるという体制を作っておかなければなりません。
大学のインフラで最も大事なものの1つは、事務組織です。事務組織がどれほど統合された仕事を実施できるかということが、大学の命運を握っているといっても過言ではありません。何かあったときに、「それはできません」「やったことがありません」で済ませられる時代ではなくなっています。今まで「できない」で済ませてきたことも本当はできるかもしれない、つまりリスクを取っていかないと強いインフラはできません。今の状態をそのまま何とか維持していっても、それは有事のときには非常に脆いかもしれない。そのために重要なことは、柔軟性と強靭性です。柔軟性とは何か。それは様々な部署がどれだけ自由に連携することができるか、それによりどれだけ効率よく動くことができるか、どれだけ新しい仕事へのリスクを取ることができるか、ということです。柔軟かつ強靭な事務組織が、我々研究大学がこれから成長していくために必須のインフラです。
令和3年は、国立大学、とりわけ私達研究大学にとって、命運に関わる年になるのではないかと思います。我々教職員は一丸となって、まず今は少しでも早くプレコロナの状態に戻ることに全力を尽くし、そのうえで新しい時代の京都大学を作っていくことができればと思います。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
令和3年1月5日
京都大学総長
湊 長博