山中伸弥 教授 ノーベル生理学・医学賞受賞の報に接して
平成24年10月8日
京都大学総長 松本 紘
本学 山中伸弥教授のノーベル生理学・医学賞受賞の一報に接し、大きな感動を胸に、山中教授にまず心からお慶び申し上げます。
このたびの受賞決定は、山中教授をはじめ、山中教授と共に研究を進めてこられた多くの方々の熱意と努力の賜物であり、総長としてその尽力と成果を称えると共に研究チームのみなさんに心からのお祝いを申し上げたいと思います。
また、今日までiPS細胞研究の推進に多大なるご支援を賜りました日本政府、総合科学技術会議、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、内閣府、日本学術会議、科学技術振興機構、日本学術振興会をはじめとする関係諸機関および関係各位に厚く御礼申し上げます。
このたびの受賞の対象となりましたiPS細胞に関する研究成果は、生物学の既成概念を覆すものであり、生物学や医学の基礎研究のみならず、再生医療分野においても今後大きな貢献が期待されております。さらに、研究成果は生物学や医学といった分野をこえて、広く科学技術一般や人文学、社会科学の分野にも大いなる影響を与えるものとなると確信しております。
山中教授の業績については、みなさんよくご存じのことと思いますが、教授は、マウス体細胞にレトロウイルスベクターを用いて4因子(Oct3/4、Sox2、c-Myc、Klf-4)を導入することで人工多能性幹(iPS)細胞の樹立に世界で初めて成功し、2006年8月に発表しました。翌2007年11月には、ヒトの皮膚細胞から同様の方法でiPS細胞の樹立の成功を報告しています。iPS細胞は、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもつ多能性幹細胞です。これは、従来、胚という生命の萌芽を利用しなければ不可能とされていた細胞核の初期化を、わずか4つの遺伝子を体細胞に導入するという比較的簡便な手法で実証したという意味で真に画期的な業績といえるものです。
また、iPS細胞は、胚性幹細胞(ES細胞)が直面する倫理的問題や免疫拒絶を回避することができるため、病気の原因やメカニズムの解明、薬剤の有効性や副作用を評価するツールとしての活用が可能であり、新薬の開発に大きく貢献できると考えられます。また、患者の細胞を用いた細胞移植治療の開発など、再生医学の新たな道を拓くことになります。
本学におきましては、2008年1月にiPS細胞研究センターを設置し、2010年4月に改組してiPS細胞研究所を設立し、研究活動を強力に支援してまいりました。また、iPS細胞研究に係る発明の円滑かつ適切な管理・活用と、その事業化を通じた研究成果の社会還元、社会貢献の推進を図ることを目的に、一般社団法人 iPSホールディングスおよびiPSアカデミアジャパン株式会社を設立しております。京都大学は、iPS細胞の基本技術に関する特許を日本、米国、欧州で成立させており、世界でますます研究開発が活発になることが期待されます。
今回の受賞は、昨今の厳しい経済状態により研究環境の悪化が危惧される我が国の研究者、とりわけ若手・中堅研究者を大いに鼓舞するものです。これまで、湯川秀樹先生を始め小林誠先生・益川敏英先生まで7名のノーベル賞受賞者を本学から輩出してきましたが、それらの多くは本学でなされた研究が評価され受賞されました。今後ともノーベル賞級の研究成果が本学から生まれるよう、より一層の研究環境の整備を行うとともに、世界トップレベルの人材育成を実現できるよう大学改革を着実に進めてまいります。さらに今回8人目の受賞者となる山中教授の栄誉をばねに、本学としてiPS細胞研究を世界各国および国内の研究機関・大学と連携し進めていく所存でございますので、関係各位におかれましても一層のご支援ご協力を賜りますよう切にお願い申し上げます。