2013年7月19日
吉富啓之 医学研究科准教授(次世代免疫制御を目指す創薬医学融合拠点)、村田浩一 同大学院生(整形外科学講座)らの研究グループは、伊藤宣 医学研究科(リウマチ性疾患制御学講座)特定准教授と布留守敏 同特定助教と協力して、22塩基程の小さなRNAであるマイクロRNAのうちmiR-24とmiR-125a-5pが関節リウマチ患者さんの血液で増加している事を発見しました。
本研究成果は、2013年7月18日14時(米国東部時間)科学雑誌「PLOS ONE」に掲載されました。
概要
関節リウマチは進行する関節破壊を起こし、日常生活に多くの障害が生じる病気で、国内では約60万人の患者がいると言われており、30歳から50歳位の働き盛りの女性に起こりやすく、その社会的損失は非常に大きいと考えられています。早期診断・早期治療が重要ですが、現在診断に用いられているリウマチ因子や抗CCP抗体等の検査が陰性の患者さんは早期では3割ほどおり、陰性の場合には確定診断が遅れてしまうことが指摘されていました。血漿中のマイクロRNAは新しい種類の検査マーカーで、これまで癌の分野で診断に有用であることが分かっていましたが、関節リウマチに特徴的な血漿中マイクロRNAに関しては知られていませんでした。
今回の研究では、768種類のマイクロRNAの発現を関節リウマチ患者さんと健常人の血漿で解析し、miR-24とmiR-125a-5pが患者さんの血漿で増加していることを明らかにしました。104名の関節リウマチ患者と102名の健常人の血漿でこれらのマイクロRNAを測定したところ、miR-24とmiR-125a-5pはそれぞれ63.7%と53.9%の感度、89.5% と89.5%の特異度を示しました。安定して発現する内部標準のマイクロRNAとしてはmiR-30a-5pが適していました。またこれら三つのマイクロRNAを組み合わせた複合値は、より高い感度(78.4%)と特異度(92.3%)を示しました。さらに抗CCP抗体が陰性の場合でも同様に、miR-24、miR-125a-5pおよび複合値はRA患者を区別することができました。このことから、血漿中マイクロRNAは、抗CCP抗体が陰性の患者さんに対しても診断に有用であると考えられました。
今後の課題
今回の研究では既に発症している関節リウマチ患者さんの、ある一時点での解析を行ったものです。今後は発症前または早期の患者さんではどうなのか、また治療によってどのように変化していくのかを調べていく必要があります。またマイクロRNAは遺伝子を抑制する働きを持ちますが、miR-24、miR-125a-5pがどのような遺伝子を制御して関節リウマチにかかわっているのかは今のところ不明です。これらの研究を行うことにより、関節リウマチの早期診断だけでなく、新しい治療法の開発へとつながると考えています。
本研究は、厚生科学研究費補助金難治性疾患等克服研究事業(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業)により実施された「ヒト関節リウマチ特異的CD4陽性細胞および血漿・関節液miRNAの同定と治療・診断への応用」の成果です。
書誌情報
[DOI] http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0069118
Koichi Murata, Moritoshi Furu, Hiroyuki Yoshitomi, Masahiro Ishikawa, Hideyuki Shibuya, Motomu Hashimoto, Yoshitaka Imura, Takao Fujii, Hiromu Ito, Tsuneyo Mimori, and Shuichi Matsuda.
Comprehensive microRNA analysis identifies miR-24 and miR-125a-5p as plasma biomarkers for rheumatoid arthritis.
PLoS One. 2013 Jul 18;8(7):e69118.
- 京都新聞(7月20日 26面)、産経新聞(7月20日夕刊 8面)、日刊工業新聞(7月22日 19面)および日本経済新聞(7月23日 16面)に掲載されました。