2013年4月24日
左から椛島准教授、宮地教授、大塚 日本学術振興会特別研究員
椛島健治 医学研究科准教授、宮地良樹 同教授、大塚篤司 日本学術振興会特別研究員は、アトピー性皮膚炎の病態であるTh2型免疫反応に好塩基球が必須であることを発見しました。
この成果は、2013年4月23日(英国時間)に英国科学誌「Nature Communications」に掲載されました。
背景
末梢血中に存在する好塩基球はわずか数%と少なく、その働きはほとんど知られていませんでした。今回、本研究グループは、好塩基球を特異的に除去できる遺伝子改変モデルマウス(好塩基球除去マウス)を用いて、アトピー性皮膚炎の病態に重要であるTh2型免疫応答について検討しました。
研究手法と成果
アトピー性皮膚炎の発症には、ダニなどのタンパク抗原により誘導されるものと金属やハプテン抗原により誘導される二つのタイプがあることが知られています。そのため、アトピー性皮膚炎を誘導する動物疾患モデルとして、タンパク抗原を繰り返し貼り付けする方法とハプテン抗原を反復塗布する疾患モデルの2種類が存在します。まず好塩基球除去マウス用いてタンパク抗原によるアトピー性皮膚炎モデルを誘導したところ、野生型と好塩基球除去モデルマウスでは皮膚炎、または血清中の抗原特異的免疫グロブリンに大きな違いは見られませんでした。一方でハプテン反復塗布によるアトピー性皮膚炎モデルを誘導したところ、好塩基球除去マウスでは、皮膚炎と抗原特異的免疫グロブリンの減少が見られました。これらのことにより、ハプテン抗原にて誘導されるTh2型免疫応答では好塩基球が重要な役割を果たしていることが明らかになりました。
これら抗原による違いが好塩基球のTh2型免疫応答への関与に違いをもたらす原因について、骨髄から誘導した好塩基球を用いて検証したところ、好塩基球のタンパク抗原取り込み能が充分でないことに起因していることがわかりました。これら結果を裏付けるように、タンパク抗原、ペプチド抗原をそれぞれ試験管内で好塩基球を用いてTh2型のT細胞を誘導させたところ、タンパク抗原ではTh2型T細胞がほとんど誘導されないのに対し、ペプチド抗原を用いた系ではTh2型T細胞が誘導されました。さらに興味深いことに、タンパク抗原であっても樹状細胞存在下では好塩基球がTh2型免疫応答を誘導できることを明らかとしました。
今後の展望
以上により、今回の研究を介して、ハプテン誘導型のアトピー性皮膚炎の病態形成に好塩基球が重要な役割を果たすことを明らかとしました。そして、クロムやニッケルといった金属アレルギーを誘導する金属、うるしかぶれで知られるウルシオールや化粧品に含まれるラノリンや防腐剤のパラベンのようなハプテン、また、グルパール19Sなどのペプチド抗原に繰り返し曝露・感作される場合には、好塩基球が皮膚アレルギーの病態形成に関与している可能性が強く示唆されます。今後、好塩基球をターゲットとした新たな治療戦略の開発が期待されます。
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms2740
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/173564
Otsuka Atsushi, Nakajima Saeko, Kubo Masato, Egawa Gyohei, Honda Tetsuya, Kitoh Akihiko, Nomura Takashi, Hanakawa Sho, Sagita Moniaga Catharina, Kim Bongju, Matsuoka Satoshi, Watanabe Takeshi, Miyachi Yoshiki, Kabashima Kenji.
Basophils are required for the induction of Th2 immunity to haptens and peptide antigens.
Nature Communications 4, Article number: 1738, 2013/04/23/online
- 京都新聞(4月24日 28面)、産経新聞(4月24日 24面)、中日新聞(4月24日 30面)、日刊工業新聞(4月24日 20面)および日本経済新聞(4月25日夕刊 14面)に掲載されました。