患者さん由来iPS細胞でアルツハイマー病の病態を解明-iPS細胞技術を用いた先制医療開発へ道筋-

患者さん由来iPS細胞でアルツハイマー病の病態を解明-iPS細胞技術を用いた先制医療開発へ道筋-

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用語説明

アルツハイマー病(AD)

ドイツの精神科医、アルツハイマー博士により1905年に報告された進行性の記憶障害を伴う認知症。中高年で発病し、徐々に進行して生活に支障をきたすようになり、最終的には意思疎通ができなくなる。その病理特徴としては、脳内に老人斑といわれるタンパク質の沈着が見られ、この老人斑の主成分がAβであることから、Aβの過剰な蓄積がアルツハイマー病の発症に深く関わっていると考えられてきた。

iPS細胞

人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)のこと。体細胞に特定因子を導入することにより樹立される、ES細胞に類似した多能性幹細胞。2006年に山中教授らの研究により世界で初めてマウス体細胞を用いて樹立に成功したと報告された。

アミロイドベータ(Aβ)

40~43個のアミノ酸が連なってできたペプチド(タンパク質断片)で、アミロイド β 前駆体タンパク質(APP)が、酵素であるγセクレターゼやβセクレターゼによって分解されることで生じる。ADでは、Aβが凝集して線維状になり、脳に沈着することが昔から良く知られている。

Aβオリゴマー

Aβが数個~十数個集まった凝集物のことで、アミロイドを作る線維状Aβとは区別されている。AD患者さんの中には、脳の老人斑(線維状のAβ)がみられない方もおられるので、現在、AβオリゴマーとADとの関係が詳しく調べられている。

BSI(β-secretase inhibitor)

Aβ産生に関与するβセクレターゼの阻害薬。βセクレターゼに結合し、前駆体タンパク質からAβが生成するのを阻害する化学物質のこと。

ドコサヘキサエン酸(DHA)

不飽和脂肪酸の一種で、主に細胞膜に存在する。魚油に多く含まれており、体内ではαリノレン酸から合成される。ただし、α-リノレン酸は体内で合成することができない。

先制医療

病気の原因や進行に関する研究知見を基に、体内の異常を早期に診断し、病気を発症する前から治療を開始することで、病気の発症を遅らせる、もしくは防ぐことを目指す医療のこと。

小胞体ストレス

細胞内で生産されたタンパク質が正しい立体構造へと折りたたまれず、細胞小器官である小胞体に蓄積してしまうことで引き起こされるストレス反応のこと。小胞体ストレスが起きると、細胞内のタンパク質生産量が減り、小胞体でのタンパク質の折りたたみ負荷が減ったり、折りたたみを助けるタンパク質が増えたり、折りたたみがうまくいかなかったタンパク質の分解効率が増える。あまりにも大きな小胞体ストレスがかかった場合には、細胞死が起きる。

酸化ストレス

通常、生体内では活性酸素が生成したとしても、それらの除去(抗酸化作用)がすみやかに行われるが、このバランスが崩れ、活性酸素の生成が増えた時に、DNAやタンパク質、脂質などが攻撃を受けて、最終的にはさまざまな細胞小器官や細胞自身が傷つくこととなる状態のこと。

アストロサイト

中枢神経系に存在する脳内最大の細胞集団で、神経細胞を取り囲み、神経活動を修飾したり、血流を調節したりすることで、神経ネットワークを支える働きがある。

活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)

細胞が酸素を使った呼吸をする際に生じる反応性の高い酸素のこと。多くの場合は、抗酸化物質や抗酸化酵素によって除去されるが、過剰に生じると、多くの物質と反応しやすい性質のため、酸化ストレスを引き起こす。細胞内での情報伝達、代謝調節などに加え、感染がおこった時に白血球が活性酸素で細菌を攻撃するなどの生理機能をもつ。

JST戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

  • 研究領域:「人工多能性幹細胞(iPS細胞)作製・制御等の医療基盤技術」
    (研究総括:須田年生 慶應義塾大学医学部教授)
  • 研究課題名:「iPS細胞を駆使した神経変性疾患病因機構の解明と個別化予防医療開発」
  • 研究代表者:井上治久(京都大学iPS細胞研究所准教授)
  • 研究期間:2009年10月~2013年3月

JSTはこの領域で、iPS細胞を基軸とした細胞リプログラミング技術の開発に基づき、その技術の高度化・簡便化をはじめとした研究によって、革新的医療に資する基盤技術の構築を目指している。上記研究課題では、基礎および臨床の研究者を結集して、患者由来iPS細胞を用いて神経変性疾患の病因メカニズムの解明および個別化予防医療開発を目的としている。