ヒトES/iPS細胞などのエピゲノム自動解析システムと方法を開発、実用化へ

ヒトES/iPS細胞などのエピゲノム自動解析システムと方法を開発、実用化へ

2013年2月5日


左から秋本淳 プレシジョン・システム・サイエンス株式会社常務取締役 ジェネテイン株式会社代表取締役社長、中辻 iCeMS教授、森田弘一 NEDOバイオテクノロジー 医療技術部長

 このたび、物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)とジェネテイン株式会社(社長:秋本淳、千葉県松戸市)は、胚性幹(ES)細胞・人工多能性幹(iPS)細胞などの幹細胞のエピゲノム解析に必要とされるメチル化DNA免疫沈降(MeDIP)、ヒドロキシメチル化DNA免疫沈降(h-MeDIP)、クロマチン免疫沈降(ChIP)などのサンプル自動調製システム(装置)を完成し、これを用いて幹細胞のメチル化・脱メチル化解析を行う方法を世界で初めて開発しました。

 本システムは、従来のマニュアル操作に比べ、実験者の習熟度によるバラツキがなく、高い再現性と信頼性のあるデータが得られることが特徴です。これにより、幹細胞の性質の違いを遺伝子レベルでより明確に識別することが可能になりました。今回の共同研究においては、まず本学再生医科学研究所より提供された3種類の性質の異なるヒトES細胞株由来の検体について、本システムを用いてMeDIP、h-MeDIPを同時に行いました。ここから得られたサンプルのマイクロアレイ解析データについて、これらES細胞のメチル化、脱メチル化の遺伝子パターンを比較することにより、3種のES細胞株の違いを識別することができました。今後この方法を用いて、ES/iPS細胞など幹細胞株の品質評価において重要度を増しているエピゲノム解析による標準的評価システムの確立を目指します。


エピジェネティクス サンプル自動調製システム:外観(左)、プラットフォーム(右)

本システム・方法は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)研究プロジェクト「ヒト幹細胞実用化に向けた評価技術開発」の中辻憲夫 iCeMS教授(設立拠点長)が率いるチームでの共同研究成果を活用して開発されたものです。

用語解説

エピゲノム、エピジェネティクス

エピゲノムとは、細胞内で起こっているDNAのメチル化やヒストン修飾など、遺伝子配列の変化を伴わない化学的修飾のことです。この変化により遺伝子発現のスイッチングが制御されますが、この機構を研究する学問のことをエピジェネティクスと称します。エピジェネティクスは特に癌や老化など、後天的な体質形成に深い関係がありますが、幹細胞においては、その初期化、分化などのプロセスがいずれもエピジェネティクス変化であることが明らかになっています。したがって、幹細胞についてこれらのエピゲノム解析を行うことはその基本的性質や、癌化などリスク関連変異を明らかにするために必要な手段であり、その品質評価のための具体的指標の確立に向けて重要であると考えられます。

メチル化DNA免疫沈降(MeDIP)、ヒドロキシメチル化DNA免疫沈降(h-MeDIP)

特異的にメチル化DNA、ヒドロキシメチル化DNAなどに結合する抗体を用いて、細胞から抽出された染色体DNAのなかで、メチル化あるいはヒドロキシルメチル化(脱メチル化の前駆体と考えられる)されたDNAのみを選択的に濃縮する方法。今まではいずれもマニュアル操作で行われていました。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)研究プロジェクト「ヒト幹細胞実用化に向けた評価基盤技術開発」

多能性を有する幹細胞(ES/iPS細胞)は様々な細胞に分化する能力を有しており、適切に誘導を行うことで神経、心筋、膵臓β細胞など様々な細胞を得ることができます。このため、創薬における薬効評価や安全性薬理試験などの創薬スクリーニング、発生・分化や疾患メカニズムの解明、再生医療への応用など生命科学や医療への貢献が大きく期待されています。ヒト幹細胞を産業利用につなげるためには、「品質の確保されたヒト幹細胞の安定的な大量供給」を可能とすることが求められております。本プロジェクトでは、様々な細胞に分化する能力を有するヒト幹細胞の産業利用促進の重要な基盤となる、品質の管理されたヒト幹細胞の安定的な大量供給を可能とする基盤技術の開発を行います。なお、中辻教授は本プロジェクトにおいてサブプロジェクトリーダー(ES細胞領域)として開発を実施しています。

関連リンク

iCeMSウェブサイトでのニュースリリース(2013年2月5日)
http://www.icems.kyoto-u.ac.jp/j/pr/2013/02/05-nr.html

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  • 京都新聞(2月6日 23面)、日刊工業新聞(2月6日 26面)および読売新聞(2月6日 34面)に掲載されました。