2012年9月28日
山田泰裕 化学研究所特定准教授と 金光義彦 同教授は、太陽電池材料である二酸化チタンの光キャリア再結合過程を解明することに成功しました。ルチル型とアナターゼ型という二つの異なる結晶相で、光で作られる電子と正孔(光キャリア)の寿命を決定し、アナターゼ型の電子寿命がルチル型と比べて著しく大きいことを明らかにしました。長い電子寿命がアナターゼ型の優れた太陽電池・光触媒性能に関係していると考えられます。本研究成果は、高効率な色素増感型太陽電池や光触媒材料の開発につながるものと期待されます。
本研究成果は、2012年9月27日に、米国科学誌「Applied Physics Letters」オンライン速報版に掲載されました。
背景
二酸化チタンは、チタンと酸素が結合してできた物質で、無害・無毒で環境負荷が低いことから、化粧品や白色顔料として古くから用いられてきました。一方、二酸化チタンは、色素増感型太陽電池や光触媒材料として用いられており、光エネルギーの有効活用や環境問題の立場から注目を集めています。二酸化チタンには、室温で安定な複数の結晶相が存在し、特に「ルチル型」と「アナターゼ型」は工業的にも幅広く用いられています。太陽電池や光触媒の効率ではアナターゼ型が優れているとされていますが、その理由は十分に理解されていませんでした。
研究手法・成果
今回、ルチル型とアナターゼ型の違いを明らかにするため、光照射によって二酸化チタン中に作られる電子と正孔(光キャリア)の緩和過程に着目しました。二酸化チタンでは、光照射によって作られた電子と正孔は結晶中を動き回って、光起電力や光触媒反応をもたらします。しかし、時間が経つと結晶中の欠陥や不純物に捕捉され、ほとんど動くことができなくなります。光起電力や光触媒反応の効率は、このような捕捉までの時間、すなわち電子と正孔の寿命と密接に関係しています。研究グループでは、発光・過渡吸収・光電流という三つの異なる測定手法を組み合わせて、電子と正孔の寿命をそれぞれ独立に決定することに成功しました。ルチル型では、電子と正孔の寿命はともに数十ナノ秒程度となりました。一方、アナターゼ型では正孔の寿命は短いものの、マイクロ秒にも及ぶ非常に長い電子寿命を持っています。このような長い電子寿命がアナターゼ型の高い太陽電池・光触媒性能に寄与していると考えられます。本研究の成果は、二酸化チタンを用いた高効率な太陽電池や光触媒材料の開発につながるものと期待されます。
(a)発光・過渡吸収・光電流による測定の概念図、(b)ルチル型・(c)アナターゼ型の発光・過渡吸収・光電流の時間変化
本研究の一部は、住友電工グループ社会貢献基金、科学研究費補助金新学術領域研究(研究領域提案型)、近畿地方発明センター、および科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST)の助成を受けて行われました。
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1063/1.4754831
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/159643
"Determination of electron and hole lifetimes of rutile and anatase TiO2 single crystals"
Yasuhiro Yamada and Yoshihiko Kanemitsu: Applied Physics Letters, 101 (2012) 133907.
用語解説
正孔
半導体の中で、電子が抜けてできた空孔。電子は負の電荷を持っているのに対して、正孔はあたかも正の電荷を持った電子のように振る舞う。
色素増感型太陽電池
光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池の一種。二酸化チタンの微粒子に色素を付着させると高い光起電力が得られることを利用しており、実用的な低コスト太陽電池として注目を集めている。
光触媒
光照射によって、物質表面で酸化反応および還元反応を引き起こす触媒物質。
発光・過渡吸収・光電流
光照射によって半導体中に生成した電子と正孔は、再結合するときに光を放出する(発光)ほか、特定の波長の光を吸収したり(過渡吸収)、電荷を運ぶことで電流を生じさせる(光電流)ことが知られている。これらの時間変化を追跡することで、電子と正孔の寿命を決定することができる。