2012年9月14日
このたび、福原始 工学研究科博士後期課程学生、小嶋浩嗣 生存圏研究所准教授、石井宏宗 工学研究科学生、岡田聡 工学研究科学生(現・三菱電機株式会社)、山川宏 生存圏研究所教授のグループは、宇宙電波環境を計測する電波観測装置の小型化に成功しました。
本研究成果は、英国科学誌Measurement science and technologyにて2012年9月14日オンライン公開されました。
概要
宇宙空間は、プラズマという電離気体で満たされています。通信衛星や気象衛星、国際宇宙ステーションも、この宇宙プラズマ中を飛翔しています。この宇宙プラズマ中では、それを構成している電子やイオンの動きによって電波が発生しています。宇宙プラズマ中の電子やイオンはお互いに衝突することなく、この電波を通じてエネルギーを交換しています(図1)。したがって、この電波(プラズマ波動と呼びます)を観測することで、宇宙空間で発生している現象を知ることができます。
図1:プラズマ粒子は、ぶつからなくてもお互いにプラズマ波動を介してエネルギーを授受します。(イラスト: 熨斗千華子氏)
本学では、人工衛星に観測器を搭載してプラズマ波動を宇宙空間で観測する研究を、国内研究者の中心として日本の科学衛星黎明期から推進してきました(図2)。プラズマ波動観測器と呼ばれるその観測装置は、非常に感度の高い電波受信器であり、その大きさは面積でA4用紙サイズ(210mm×297mm)程度あります。本研究グループでは、このプラズマ波動観測器専用のアナログチップ(ASIC: Application Specific Integrated Circuit)を設計・開発し、プラズマ波動観測器をマッチ箱サイズ(45mm×50mm)にまで小型化することに成功しました(図3)。
図2: 科学衛星で観測されたプラズマ波動の例
図3: 開発したチップのパッケージ(基板左上)を搭載したマッチ箱サイズのプラズマ波動観測器
従来のA4サイズの観測器がマッチ箱サイズにまでに小型化されたことにより、宇宙空間に多数の観測ポイントを設置したり、宇宙ステーションなどの構造物に複数貼り付けたりすることが可能になり、従来の人工衛星のように空間で1点でしか計測できないという欠点を克服することができ、今後人類が宇宙空間の利用を拡大していくにあたってその環境をモニターする装置として活用することができます。現在、実際に宇宙空間で観測を行うためのロケット実験が計画されています。
論文タイトル
[DOI] http://dx.doi.org/10.1088/0957-0233/23/10/105903
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/159518
Fukuhara, H., H. Kojima, H. Ishii, S. Okada, and H. Yamakawa,
Tiny waveform receiver with a dedicated system chip for observing plasma waves in space,
Measurement science and technology, 23(10), 105903, 2012.
本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。(いずれも研究代表者:小嶋)
- 科学研究費補助金基盤研究A(平成19年度~22年度、平成23年度~26年度)
- 山田科学振興財団研究助成(平成21年度~22年度)
- JAXA搭載機器基礎開発実験費(平成18年度~19年度、平成24年度)
回路設計は、東京大学大規模集積システム設計教育研究センター(VDEC) を通し、日本ケイデンス株式会社の協力を得て行われました。
さらに本研究は、下記の各社の協力を得ました。
- シリコンソーシアム株式会社
- 株式会社デジアン・テクノロジー
- 明和システム株式会社
- 京都新聞(9月14日 28面)に掲載されました。