2012年8月1日
小野輝男 化学研究所教授、山田啓介 同大学院生(現パリ南大学研究員)は、葛西伸哉 物質材料研究機構主任研究員、仲谷栄伸 電気通信大学教授、佐藤知徳 同大学院生、およびローレンスバークレイ研究所のPeter Fischer博士、Mi-Young Im博士との共同研究で、ミクロな磁気円盤におけるスピン状態の対称性の破れを見出しました。
この成果は、英国科学誌Nature Communications誌に2012年8月1日にオンライン公開されました。
概要
直径が数マイクロメートル程度の磁気円盤を作ると、磁化が円盤面に沿う磁気渦構造ができます(図1(a))。この磁気渦の中心には、コアと呼ばれる磁化の向きが円盤に垂直方向に立ち上がる領域が存在します(図1(a))。この磁気渦構造の研究は京都大学のグループが長年行ってきた研究の一つであり、コアの検出1や電流によるコアの回転運動の励起2、コアの向きの反転3、コア運動によるスピン起電力発生4など多くの研究を報告しています。
磁気渦状態には、渦の回転方向(時計回り・反時計回り)とコアの向き(上・下)の二つの自由度があることがわかります。したがって、それらの組み合わせによる磁気渦状態には4通りあることになります(図1(a)-(d))。これら四つの状態は同じエネルギーを持ち、同確率で現れると期待されていました。今回、私たちはローレンスバークレイ研究所のX線顕微鏡を用いて、単磁区状態から磁気渦状態への変化を詳しく調べました(図2)。驚いたことに、上述の四つの状態は独立ではなく、渦の回転方向とコアの向きの間に相関があることがわかりました。例えば、時計回りの磁気渦は上向きコアを持ちやすい、という具合です。この磁気円盤におけるスピン状態の対称性の破れは、ジャロシンスキー守谷相互作用を仮定することで説明可能であることが、マイクロマグネティクス計算によりわかりました。
図1:磁気渦の概念図
渦の回転方向(時計回り・反時計回り)とコアの向き(上・下)の組み合わせによって磁気渦は(a)-(d)の四つの状態をとりえる。
図2: X線顕微鏡による磁気渦構造の観察例
(a)磁気渦の面内成分測定:黒コントラストが右向き磁化成分、白コントラストが左向き磁化成分を表し、これらから磁気渦の回転方向が決定できる。(b) 磁気渦の面直成分測定:各磁気円盤中心の白黒のコントラストがコアの上向き・下向きに対応している。(c)測定(a)および(b)から決定された磁気渦のスピン構造。
本研究の一部は、科学研究費補助金基盤研究(S)「新規スピンダイナミクスデバイスの研究」、および京都大学化学研究所共同利用・共同研究課題によって支援されました。
参考文献
- T. Shinjo et al. Science 289, 930 (2000).
- S. Kasai et al. Phys. Rev. Lett. 97, 107204 (2006).
- K. Yamada et al, Nature Materials 6, 270 (2007).
- K. Tanabe et al, Nature Communications 3:845 doi: 10.1038/ncomms1824 (2012).
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms1978
Im Mi-Young, Fischer Peter, Yamada Keisuke, Sato Tomonori, Kasai Shinya,
Nakatani Yoshinobu, Ono Teruo.
Symmetry breaking in the formation of magnetic vortex states in a
permalloy nanodisk. Nature Communications 3, 983, 2012/07/31/online
doi: 10.1038/ncomms1978
- 日刊工業新聞(8月1日 17面)に掲載されました。