用語解説・注釈
ラフト
細胞膜は2次元状の液体である。それで、細胞膜を海面に例えると、そこにぷかぷか浮いているイカダ、というイメージからラフトという名前が使われるようになった。細胞膜は一様ではなく、氷山のようなものができていたり、シャーベット状の塊(正しくは、秩序液晶相という領域)があったりという議論は、この40年間ほど続いている。人工膜では、このような膜領域を作り出すことができている。しかし、実際の細胞膜がどうなっているかは、ほとんどわかっ ていなかった。人工膜では、大抵、2~3種類の脂質分子で膜を構成するので、そこで、シャーベット状の塊を作るために必要な代表的な脂質分子は、コレステ ロールと糖脂質であることがわかっている。しかし、細胞膜中には、1万種程度の分子が存在し、それらがどのように混ざり合って、液体中に不均一な構造を作るのかは、ほとんどわかっていなかった。したがって本研究で、GPIアンカー型受容体の会合が誘導されると、そこに、コレステロールと糖脂質が集まって直径数nm~数10nmのラフトが誘導されることがわかったことは、細胞膜の構造と機能の理解を大きく前進させるものである。
受容体(receptor)
細胞膜上にあり、光・ホルモン・抗原などの刺激を選択的に受け取って細胞機能に変化を生じさせる物質。
GPIアンカー型受容体
GPIは、glycosylphosphatidylinositol=グリコシル・ホスファチジルイノシトールと呼ばれるリン脂質の一般的略称。受容体タンパク質の15%程度は、GPIに共有結合することによって、細胞膜に結合(アンカー)されている。このような受容体をGPIアンカー型受容体と呼ぶ。GPIアンカー型受容体は細胞内に露出していないため、この分子だけでは細胞内にシグナルが伝わらない。
2量体(dimer)
分子2個が結合して生成する2分子結合体のこと。三つ・四つの分子がまとまった場合は三量体・四量体と呼ぶ。
リガンド
細胞外分子で、受容体に結合する分子。広義には、タンパク質分子に結合して、新たな機能を与えたり、構造変化を誘導したりする分子を、リガンドと呼ぶ。
CD59
GPIアンカー型受容体の一種。免疫系の補体複合体をリガンドとし、補体系による自己攻撃を阻止するためのシグナルを、細胞内に発する。
細胞膜上の1分子観察
生細胞中で観察したい目的分子に、蛍光を発する分子を結合させ、蛍光を目印に1分子分解能でその分子を観察する方法。このためには、特殊な蛍光顕微鏡(本研究では、研究室で開発し組み立てた顕微鏡)を用いる。多数の分子の挙動を1個ずつ見て、それらの動きや分布変化が追跡できる。本研究グループでは1986年以来、特殊な顕微鏡の開発だけでなく、細胞がよい状態のまま1分子観察をするための自動化技術、画像取得後にノイズの中からシグナルを拾って1分子を追跡するためのソフトウェアの開発などの技術開発を実施してきており、この分野での世界のリーダーとなっている。