関節リウマチ患者を対象とした疾患活動性情報共有システムの開発~医学部附属病院とNTTによる病院外フィールド実験の開始~

関節リウマチ患者を対象とした疾患活動性情報共有システムの開発~医学部附属病院とNTTによる病院外フィールド実験の開始~

2012年1月27日

 医学部附属病院(京都府京都市左京区、代表:三嶋理晃病院長)と、日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:三浦 惺、以下「NTT」)は、関節リウマチ患者の病気の進行度や症状・機能障害の程度をスマートフォンで計測し、かつ医療従事者がリアルタイムに計測情報にアクセスできる画期的なシステムを開発しました。医学部附属病院とNTTは、日常生活の中での有用性を確認するため、2月1日より患者にスマートフォンを貸与し、病院外でのフィールド実験を開始します。

   

  1. 前列左より、本田新九郎NTTサイバーソリューション研究所主任研究員、伊藤宣 医学部附属病院リウマチセンター准教授、
    西口周 医学研究科人間健康科学系専攻理学療法士、後列左より岡本和也 医学部附属病院医療情報部特定助教、
    青山朋樹 医学研究科人間健康科学系専攻准教授、 伊藤達明 NTTサイバーソリューション研究所研究員、
    篠原章夫 同主任研究員 

1.背景・経緯

 現在、日本の高齢化は進展の一途を辿っており、5人に一人が高齢者という超高齢化社会に突入しています。高齢になるにつれ慢性疾患の罹患率が急激に高まっており、慢性疾患患者の病院外支援やQOL(Quality of Life、生活の質)向上のための治療が課題となっています。

 手足の機能に大きな障害をもたらす慢性疾患の一つに関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis)があり、患者の数は全国で60万人以上と推定されています。近年、関節リウマチの薬物治療は目覚しい進歩をとげ、早期に診断を行い、強力な抗リウマチ薬を投与することで速やかに寛解を目指す治療戦略が世界的に標準化されようとしています。

 医学部附属病院では2011年4月に、本格的な診療科横断的治療センターであるリウマチセンターを創設しました。本センターでは、患者を総合的に治療するとともに、治療経過・状態を詳細に解析することで関節リウマチ治療の更なる改善のための研究を進めています。関節リウマチの治療は、その疾患活動性評価に拠ることは多くの研究が示していますが、疾患活動性評価のうち、機能評価には特に困難が伴います。すなわち、日々の活動状況を短い外来診察の時間の問診だけで判断することは必ずしも正確とは言えず、また刻々と変わっていく症状や機能の変化を正確にとらえることも難しいのが現状でした。

2.開発成果

 これらの現状をふまえ、関節リウマチ患者の病状把握と治療改善のために、医学部附属病院とNTTは、疾患活動性情報共有システムを開発しました。

 疾患活動性情報共有システムの特徴は、以下のとおりです(図1)。

  • 特徴1:患者に負担をかけることなく日常生活の中で簡易に計測・記録・評価が可能
  • 特徴2:スマートフォンを持っているだけで、歩容(歩いているときの身体運動の様子)や移動距離の測定が可能であり機能評価を行うことができる
  • 特徴3:患者が日々の体調をスマートフォンで簡易に記録でき、疾患活動性評価を行うことができる
  • 特徴4:計測結果等を即時にネットワークを介してサーバへ転送し、医療従事者との共有が可能である

 なお、NTTが開発した、スマートフォンで動作する歩容解析アプリケーションを利用し、医学部附属病院内にて関節リウマチ患者の歩容を測定する予備実験を昨年4月から5月にかけて行いました。本予備実験にて、従来使用されてきた大型の加速度センサと同等の歩行評価が可能であること、歩容評価が関節リウマチの疾患活動性や問診による日常生活動作(ADL)と相関があることを確認しました。

3.技術のポイント

 近年、スマートフォンには加速度センサ・GPS・ジャイロセンサ等が搭載され、人間の動きを計測できるようになりつつあります。しかし、スマートフォン搭載の加速度センサは、端末の向き検知やゲームのコントロールなどへの利用がメインであり、高精度な歩容計測が困難でした。そこでNTTで長年研究を重ねているセンサデータ処理技術歩行モニタリング技術をベースに、スマートフォンのセンサ情報を用いて歩容を手軽に記録分析する技術を開発しました。

(1)加速度データから歩行の代表点を自動で抽出可能なスマートフォン向けアプリケーション
スマートフォン搭載の加速度センサから取得されたデータから高精度に特徴点を検出することにより、歩行の代表点を自動で抽出することを可能とします。これによって、歩行のばらつき、歩行ペース、歩行における左右バランスをスマートフォンで計測が可能となります。なお、従来の歩容計測では加速度データから一歩毎の代表点を専門家が目視にて抽出し、その代表点に基づいて周期性などの特徴を見るデータ処理を行っていました。

(2)多様なスマートフォンへ対応可能な記述方式【FDML】
NTTが開発したXML形式の記述方式で、スマートフォンからサーバへ送信される様々なセンサ情報を、時間関連性を維持しながら扱うことができます。また、サーバ側がFDML(Field Data Mark-up Language)準拠であればデータベース構造の変更無く新しいセンサ情報を容易に追加できるといった特徴をもつデータ記述方式です。今後の多様なスマートフォンの技術進化に対応できる技術となります。

4.実証実験について

 歩容が活動性評価の有力な指標となることを期待し、患者の日常の歩容状態等を計測する病院外フィールド実験を開始します。今回のスマートフォンを用いた実証実験は、医学部附属病院とNTTサイバーソリューション研究所が共同で実施します。

対象患者数 20人~30人を想定 
※今回の実験に参加していただく患者には、事前説明を行い同意をいただきます。
実験期間 2月1日から約2ケ月間程度
実験方法 NTTが開発したアプリケーションを搭載したスマートフォンを患者に貸与し日常の歩容状態等を測定
検証項目 (1)日常生活動作、日常活動性評価
(2)症状、疾患の活動性モニタリング
(3)服薬、血液データなどの患者情報の活用
(4)スマートフォンを用いた医療情報共有システムの検証
期待効果 患者の歩容データが一定間隔でサーバにアップロードされるため、電子カルテとリンクすることで、医療従事者が患者の日々の歩容状態を確認することが可能となります。また患者が定期的に記録した症状や日常生活の状況を医療従事者が即時に確認できます。そのことにより患者の日々の歩容状態と、関節リウマチの症状・血液検査・疾患活動性・投薬などとの関連が明らかになり、関節リウマチの病状把握、疾患活動性の軽減、予後の改善、治療の進歩に貢献できると期待されます。
(図3.1、3.2)

5.今後の展開

 関節リウマチの患者を対象とした実証実験を、本実験終了後も定期的に行う予定です。近い将来、日常診療の場で本システムの稼働を実現させ、関節リウマチ治療の進歩・発展に貢献することを目指していきます。また、患者の病院外での活動状況を、医療従事者へリアルタイムに共有する仕組みは、様々な慢性疾患や外科治療後のリハビリテーション時に適用可能であると考えており、医学部附属病院とNTTは共同で応用研究を進めていきます。

6.参考図


図1 システム概観

図2 体制と役割分担

図3.1 患者用画面例

図3.2 医療従事者用画面例

 

  • 朝日新聞(1月28日 34面)、京都新聞(1月28日 31面)、産経新聞(1月28日 29面)、毎日新聞(1月28日夕刊 8面)、読売新聞(1月28日 35面)および科学新聞(2月10日 5面)に掲載されました。