2010年3月18日
左から、北村氏、平出教授、石見助教、川村教授
北村哲久 保健管理センター大学院生、石見拓 保健管理センター助教、川村孝 保健管理センター教授、平出敦 医学研究科附属医学教育推進センター教授らの研究成果が米国医学誌『The New England Journal of Medicine』誌に掲載されました。
研究成果の概要
Nationwide Public-Access Defibrillation in Japan 日本における国家規模の一般市民除細動
病院外での心臓突然死は、日本では毎年約5万件発生している。突然心停止になった人に対して自動体外式除細動器(automated external defibrillation: AED)を用いて早く電気ショックを与えることが出来れば、その救命率は大きく向上する。日本では2004年7月から市民によるAEDの使用が許可され、2008年末の時点で公共の場に設置されたAEDの数は約15万台に達している。しかしながら、その普及効果についてはまったく検証されていなかった。
今回我々は、全国の消防機関が行っている院外心停止患者の全例登録調査から、AEDの国家規模での普及が、院外心停止患者に対する早期電気ショックを可能とし、救命率を向上することを実証した。これは、国家規模でのAED普及効果を証明した世界で初めての論文であり、3月18日付のThe New England Journal of Medicineに掲載される予定である。
論文要旨
背景
公共の場所でのAEDの普及が、院外心停止後の生存を改善するかどうかは明らかではない。
方法
2005年1月1日から2007年12月31日まで、日本全域で救急蘇生を試みられた院外心停止患者を対象とした前向き人口規模観察研究を実施し、院外心停止後の生存における国家規模の公共AED普及効果を検証した。主要転帰は神経障害が最小であった1ヶ月生存とした。多変量ロジスティック回帰分析は、神経学的に良好な予後と関連する因子を評価するために用いられた。
結果
312,319人の院外心停止患者が登録された。このうちの12,631人は、居合わせた人によって目撃され、心原性であり、心室細動で発見された心停止患者であった。そのうちの462人(3.7%)が公共AEDで居合わせた人による電気ショックを受け、公共AEDの数の増加とともにその割合は1.2%から6.2%に増加した(傾向性P<0.001)。目撃された心室細動の心原性心停止患者では、神経障害が最小であった1ヶ月生存は14.4%であり、公共AEDで電気ショックを受けた患者では31.6%であった。早期電気ショックは、電気ショックを実施する者(市民もしくは救急隊)にかかわらず心室細動後の神経学的に良好な予後と関連した(倒れてから電気ショックまでの時間が1分遅れるごとの調整オッズ比0.91;95%信頼区間0.89-0.92、P<0.001)。可住面積あたりの公共AED数が1平方キロメーターあたり1個未満から4個以上へ増加するとともに、電気ショックまでに要する時間は平均3.7分から2.2分に短縮し、年間・人口1000万人あたりの神経障害が最小であった1ヶ月生存数は2.4人から8.9人に増加した。
結論
日本における国家規模での公共AEDの普及は、早期電気ショックと、院外心停止後の神経障害が最小の1ヶ月生存の増加をもたらした。
The New England Journal of Medicineについて
ニューイングランドジャーナルオブメディシンは、世界で最も伝統があり、最も引用される、最も有名な国際的な総合医学雑誌であり、ネイチャーやサイエンスをしのぐ評価を受ける学術雑誌である。
用語説明
Public Access Defibrillation (PAD)
公共の場にAEDを設置し、AEDの使い方を含めた心肺蘇生トレーニングを一般市民に普及させること。PAD Programともいう。心停止の現場に居合わせた市民救助者が、救急隊到着前に心肺蘇生を開始し、AEDを使用することで、病院外で発生した心停止からの救命率の向上させることを目的とする。
- 朝日新聞(3月18日夕刊 1面)、京都新聞(3月18日夕刊 8面)、産経新聞(3月18日夕刊 8面)、中日新聞(3月18日夕刊 3面)、日刊工業新聞(3月19日 28面)、日本経済新聞(3月18日夕刊 20面)、毎日新聞(3月19日 2面)および読売新聞(3月18日夕刊 10面)に掲載されました。