2009年8月15日
影山教授
影山龍一郎 ウイルス研究所教授、小林妙子 同助教らの研究グループは、白髭克彦 東京工業大学生命理工学研究科教授および古澤力 大阪大学情報科学研究科准教授の研究グループとの共同研究によって、振動遺伝子Hes1が胚性幹細胞の多様な分化応答に寄与することを発見しました。
この研究成果は、2009年8月14日(米国東部時間)発行の米国科学誌「ジーンズ・アンド・ディベロップメント(Genes & Development)」誌に掲載されました。
論文名:
- The cyclic gene Hes1 contributes to diverse differentiation responses of embryonic stem cells. (振動遺伝子Hes1が胚性幹細胞の多様な分化応答に寄与)
研究の背景
胚性幹(ES)細胞はあらゆる種類の細胞を作り出すことが出来る万能細胞であり、様々な分化誘導方法が開発されている。しかし、ES細胞の分化の方向性やタイミングは個々の細胞間でばらついているため、コントロールが非常に難しい。例えば、分化誘導後も成熟分化細胞群の一部に未分化な細胞や異なる方向へ分化した細胞が混在してしまう。この不均一な分化パターンが何故生じるのかは、ほとんど分かっていなかった。
研究の内容
本研究チームは、ES細胞において転写因子Hes1の発現を解析し、細胞内のHes1の発現レベルが時間軸に沿って約3-5時間の周期で振動していること、そのため個々の細胞で発現が不均一に見えることを明らかにした(図1)。また、Hes1が制御する下流遺伝子の中には神経分化や細胞分裂を制御する因子が含まれており、その発現もES細胞内で変動していた。Hes1タンパク質の発現レベルが低いES細胞と高いES細胞を分離して分化を誘導した結果、Hes1のレベルが低い細胞はより神経系に分化しやすく、Hes1のレベルが高い細胞はより中胚葉に分化しやすいことがわかった(図2)。また、Hes1の発現振動を失ったHes1ノックアウトES細胞は、均一に、より早いタイミングで神経に分化した。これらの結果から、ES細胞内でのHes1の発現レベルがES細胞の分化の方向性とタイミングに寄与していること、つまり、Hes1の発現振動は、ES細胞の分化能力を継時的に変化させて、ばらばらな細胞応答を作りだしていることが分かった。
- 図1:Hes1の発現のバラツキ 図2:Hes1の発現振動と分化パターン
今後の展望
ES細胞群におけるHes1の発現レベルや振動をコントロールすることによって、均一な分化細胞群を得ることができると期待される。特に、Hes1活性を抑制したES細胞は、神経再生にたいへん有効であろう。
- 朝日新聞(8月15日夕刊 8面)、京都新聞(8月15日夕刊 8面)、日刊工業新聞(8月26日 23面)、日本経済新聞(8月16日 34面)、毎日新聞(8月15日夕刊 7面)および読売新聞(8月15日夕刊 2面)に掲載されました。