サイト間電荷移動に伴う巨大な負の熱膨張を示す新物質を発見

サイト間電荷移動に伴う巨大な負の熱膨張を示す新物質を発見

2009年3月5日


左から島川祐一 教授、龍有文 博士研究員

 化学研究所の島川祐一 教授、龍 有文(Youwen Long) 博士研究員らは、新規Aサイト秩序型ペロブスカイト構造酸化物を合成することに成功しました。さらにこの材料がサイト間電荷移動に伴う巨大な負の熱膨張を示すことを発見しました。

 この結果は、物質・材料科学分野での新現象の発見に留まらず、新しい応用展開の可能性を示すものとして、3月5日発行の英国科学誌Natureへ掲載されることになりました。

論文名:
"Temperature-induced A-B intersite charge transfer in an A-site-ordered LaCu3Fe4O12 perovskite"
Y.W. Long, N. Hayashi, T. Saito, M. Azuma, S. Muranaka & Y. Shimakawa

研究成果の概要

 ペロブスカイト型と呼ばれる結晶構造を有する酸化物は、近年、高温超伝導や巨大磁気抵抗効果、マルチフェロイックスなどの新しい特性が見いだされ、物質・材料科学の分野だけではなく、将来のエレクトロニクスを支える機能性材料として多くの注目を集めています。今回発見した は、ペロブスカイト構造( )におけるAサイトの4分の1をLa(ランタンイオン)、残りの4分の3を遷移金属であるCu(銅イオン)が秩序化して占有するという特徴的な結晶構造をとる新物質です。

 この物質はセラミックスの一種であり、およそ10万気圧、1100℃程度の高温高圧力下で合成することができます。詳細な結晶構造解析やメスバウアー効果の測定から、室温での状態はイオン結晶的な表記では となり、極めて珍しい というイオン状態がAサイトで実現していることが明らかになりました。さらに興味深いことに、温度を上げていくと393 K(120 ºC)でBサイトの (鉄イオン)が異常高原子価と呼ばれる高い酸化状態の イオンになると同時にAサイトの イオンが へと変化する「サイト間電荷移動」を起こすことが見いだされました。このようなサイト間電荷移動は高圧力などの特殊条件下で起こることは数例報告されていましたが、温度によって起こることが確認されたのは初めてです。

 このサイト間電荷移動転移では、結晶構造は同じであるにも関わらず結晶格子の大きさは著しい変化を示し、温度上昇に対して体積が減少する「負の熱膨張(Negative Thermal Expansion: NTE)」を示します。負の熱膨張係数を持つ無機固体材料はエレクトロニクスの分野でも非常に興味を持たれていますが、今回の材料は単にその変化が大きいだけではなく、室温以上の温度で、立方晶の構造を保ったまま等方的に体積が減少することも大きな特徴です。また、サイト間電荷移動転移に伴い、反強磁性状態から常磁性状態への磁気転移と絶縁体から金属への転移も同時に起こります。このことは、外部磁場や電気的な信号により熱膨張を制御できる可能性を示しています。

 本研究の成果は、物質・材料科学分野での新現象の発見に留まらず、将来のエレクトロニクス分野における新材料を開発する上での指針を与えるとともに、新しい応用展開の可能性を示すものです。

 


図: 新物質の結晶構図とサイト間電荷移動

  • 朝日新聞(3月5日夕刊 9面)、京都新聞(3月5日 25面)、産経新聞(3月5日 26面)、中日新聞(3月5日 3面)、日刊工業新聞(3月5日 24面)および毎日新聞(3月5日 2面)に掲載されました。