筋細胞膜の修復タンパク質MG53を発見

筋細胞膜の修復タンパク質MG53を発見

2008年12月1日

 竹島 浩 薬学研究科生命薬科学専攻教授らの研究グループは、MG53というタンパク質が筋細胞膜の修復機構を担う重要な機能を有することを発見し、その論文が英国科学誌「Nature Cell Biology」誌に掲載されました。

研究成果の概要

 我々の体を構成する細胞はリン脂質により構成される細胞膜により覆われており、その重篤な損傷は細胞死を誘導し、さらに細胞死に伴う炎症を発生させます。物理的または化学的な要因による細胞膜損傷は日常的に体内で発生しています。例えば、絶えず収縮する心筋や骨格筋細胞では高頻度に細胞膜損傷が生じるものと考えられます。正常状態で細胞死が頻繁に生じない理由は、軽度の細胞膜損傷であれば修復する機構が個々の細胞に備わっているからです。しかしながら、細胞膜修復機構に関与するタンパク質や分子機構については、現在のところまったく不明です。

 竹島研究室で発見されたミツグミン53(MG53)は、筋細胞の細胞膜直下に分布するリン脂質小胞に分布するタンパク質です。MG53欠損マウスは正常に発育しますが、肢体の筋細胞が貧弱で、進行性筋ジストロフィー様の症状を示しました。米国ニュー・ジャージー州立大学医学部の研究室における詳細な生理学実験により、MG53欠損筋細胞は細胞膜修復の能力が極度に低下しており、細胞膜損傷に対して極めて感受性が高いことが判明しました。従って、MG53は、骨格筋の膜修復機構の中核を担うタンパク質であることが明らかになりました。一方、ヒト遺伝子上にはMG53と類似のタンパク質が多数想定されており、非筋細胞では他のMG53相同タンパク質が同様に細胞膜修復に寄与する可能性もあります。

 上記の結果から、MG53の異常が筋ジストロフィーの原因となっていることも推定されるため、臨床研究グループにより原因不明の筋ジストロフィー患者の遺伝子解析が始まるところです(病態発生機序の解明・新たな診断法の確立)。一方、筋ジストロフィーではいくつかの原因が知られていますが、最終的には細胞膜損傷により筋組織の細胞死が亢進している病態です。MG53が仲介する細胞膜修復を活性化または補充することにより、筋ジストロフィーの治療への可能性も考えられます。現在遂行中の実験では、MG53を細胞外に添加することで、細胞膜修復能力が向上することも明らかになりつつあります。細胞膜修復能力を制御することが可能になれば、様々な潰瘍・炎症・免疫性疾患の治療へ応用される可能性もあります。

 

  • 京都新聞(12月1日 24面)、産経新聞(12月1日 1面)、日本経済新聞(12月1日 13面)、毎日新聞(12月5日 23面)および読売新聞(12月1日 2面)に掲載されました。