2008年7月24日
中村孝志 医学部附属病院整形外科 教授(写真右)と、敷波保夫タキロン株式会社メディカル研究所博士(写真左)のグループは、手術中に大きな骨欠損部の立体的形状に合うように裁断、熱変形ができ、骨伝導性に加えて、骨誘導性を促進する極めて効率的な骨再建用の足場材料(scaffold)の開発に成功しました。
研究成果の概要
現在、腫瘍の摘出や骨移植のために採取されたあとに残る大きな骨欠損部の再建、再生のために骨が再生、再建されるまでの間の一時的な足場となる材料に関する研究が世界的に行われており、それは膨大な数に上る。しかし、多孔質のバイオセラミックスのみのものは一般的に骨誘導能に欠け、脆くて容易に欠けたり割れたりし、裁断や、熱変形できないので、利便性が無かった。
つまり、
1)骨伝導性があり、骨誘導を促進する作用をもつ
2)骨の再生、再建が短期間に完了し、足場としての自らは生体に対し、良好な適合性を示して、出来るだけ短期間(~1年)に消失する
3)骨欠損部の立体的形状に合わせて、手術中に裁断または熱変形ができる
4)海綿骨と同程度(5~10MPaの圧縮強度)の初期強度をもつ
などの必須条件を全て満たした足場材料は今までつくられていなかった。
タキロンと京大のグループは数年前から、材料はタキロンが開発し(商品名 コンポラス®、ComporusTM)、京大が動物実験でその有効性、有用性を確認する共同研究を進めてきた。その結果、コンポラスには上記の性能を全て満たすことが確認されたので、学会や学術論文に発表してきた。
コンポラスはポリD/L乳酸に対して75wt%(約50vol%)もの大量の非焼成の生体活性、生体内吸収性のハイドロキシアパタイト(平均粒径3~5μm)を含む。そして、気孔径0.5~400μmからなる種々の大きさの孔が連通した気孔を70%以上含み、気孔率70%の多孔体である。圧縮強度は約5MPaであり、約1年以内に生体内で全吸収されて、生体骨が再建、再生される。
コンポラスは脊椎部位を含む各種の整形外科の部位のみならず、個々の患部の形状に合わせた下顎の大欠損部の再建や形成、美容外科の分野など多くの分野での臨床応用の拡大が期待できる。
コンポラスはタキロンが2008年4月にFDA(米国食品医薬品局)510Kの承認を得たので(承認番号K062629)、タキロン株式会社は2009年4月以降のアメリカへの輸出販売を目指して販売会社の探索と製造体制の確立を進めている。
- 京都新聞(7月25日 2面)、産経新聞(7月25日 22面)、日刊工業新聞(7月25日 31面)、毎日新聞(7月25日 8面)および読売新聞(8月4日 31面)に掲載されました。