英国科学雑誌「Nature Genetics 5月号(ラット特集号)」にラットリソースプロジェクト(NBRP-Rat)の事業成果及び関連研究が掲載されました。

英国科学雑誌「Nature Genetics 5月号(ラット特集号)」にラットリソースプロジェクト(NBRP-Rat)の事業成果及び関連研究が掲載されました。
2008年4月29日

 

京都大学大学院医学研究科附属動物実験施設が中核機関(代表研究者:芹川忠夫)として行っている、ラットリソースプロジェクト(NBRP-Rat)に関連する3編の論文が英国科学雑誌Nature Genetics 5月号(ラット特集号)に掲載されました。

左から医学研究科附属動物実験施設の真下知士 特任准教授、庫本高志 准教授、芹川忠夫施設長・教授

Nature Genetics 5月号(ラット特集号)の発刊にあたって

ナショナルバイオリソースプロジェクト「ラット」
中核機関代表研究者
京都大学大学院医学研究科附属動物実験施設
附属動物実験施設長・教授
芹川忠夫
http://www.anim.med.kyoto-u.ac.jp/NBR/


本号に、ナショナルバイオリソースプロジェクト「ラット」(NBRP-Rat)に関連する3編の論文が掲載される。

背景

文部科学省は、ライフサイエンス研究に広く用いられる実験材料(動植物、細胞、DNAなど28のバイオリソース)の収集、保存、提供事業として、「ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)」を行っている。ラットは、遺伝子と病気の関係を明らかにすることができる貴重なバイオリソースであり、京都大学大学院医学研究科附属動物実験施設が中核機関(代表研究者:芹川忠夫)として、ラットリソースプロジェクト(NBRP-Rat)を行っている。これまで京都大学には500を超えるラット系統が集められ、世界最高水準のバイオリソース拠点となっている。今回、この事業成果と関連研究が英国科学雑誌Nature Genetics の5月号に掲載されることになった。

  1. 総説論文

    論文名:
    Progress and prospects in rat genetics: a community view 
    (ラット遺伝学の進歩と将来:ラット研究者の見解)
    著者名:Tim Aitman, et al.

    日本からの共著者名、役職、所属:
    芹川忠夫(教授)、庫本高志(准教授)、真下知士(特任准教授)、ビルガー・フォークト (産学官連携研究員)、京都大学大学院医学研究科附属動物実験施設

    内容の概略:
    ラットの研究者コミュニティーによる遺伝学の進歩と将来について記述された総説である。その中で、ラットがヒト疾患の解明と予防に貢献する重要なバイオリソース(生物資源)であることを強調している。また、文部科学省が進めているバイオリソース事業(国家プロジェクト)の一つであるラット事業(NBRP-Rat)におけるラット系統の収集・保存・提供事業、胚・精子の凍結保存技術、特性解析事業が述べられており、NBRP-Ratが如何に大きな国際的貢献をしているかが述べられている。

  2. 原著論文

    論文名:
    SNP and haplotype mapping for genetic analysis in the rat
    (ラット遺伝子解析研究のためのSNPおよびハプロタイプマッピング)

    著者名:
    The STAR Consortium

    日本からの共著者名、役職、所属:
    芹川忠夫(教授)、庫本高志(准教授)、真下知士(特任准教授)、ビルガー・フォークト (産学官連携研究員):京都大学大学院医学研究科附属動物実験施設、辰本将司、黒木陽子、豊田敦、榊佳之:理化学研究所、ゲノム科学総合研究センター、藤山秋佐夫:国立遺伝学研究所

    内容の概略:
    EUでは、ラットゲノム解析事業の一環として、一塩基多型(SNP)の網羅的な探索プロジェクトSTARが行われてきた。日本からは、芹川教授らがこのSTARプロジェクトに参加した。ナショナルバイオリソースプロジェクトのゲノム解析事業により得られたラットのシークエンス情報、世界最多数の遺伝解析用ラット系統(リコンビナント近交系)を用いた生理学的、解剖学的、行動学的特性パラメータに関するデータ、および96系統のラットがこのプロジェクトに活用された。これまでに約300万個のSNPが発見されており、この中の約2万個のSNP について、167系統あるいはラット個体が解析され、疾患に直接関わると推定されるSNP情報が得られた。

  3. 論文 (Correspondence)

    論文名:

    An ENU-induced mutant archive for gene-targeting in rats
    (標的遺伝子に変異をもつラットを作製するためのENUミュータントアーカイブ)
    著者名:Tomoji Mashimo, et al.

    共著者名、役職、所属:
    真下知士(特任准教授)、徳田智子(大学院生、現ジャクソン研究所ポスドク)、ビルガー・フォークト(産学官連携研究員), 滝澤明子(産学官連携研究員)、庫本高志(准教授)、芹川忠夫(教授):京都大学大学院医学研究科附属動物実験施設、柳原克彦(科学技術振興助教授、現国立遺伝学研究所)、中島 玲子(科学技術振興助手、現国立遺伝学研究所):京都大学大学院医学研究科先端領域医学研究機構、平林真澄(准教授)、加藤めぐみ(研究員):自然科学研究機構、生理学研究所

    内容の概略:
    化学変異原であるエチルニトロソウレア(ENU)を利用して、ゲノムDNA上にランダムに点突然変異が導入されたミュータントラットのアーカイブを作製した(ラット5000頭分のDNAと凍結精子)。特定の標的遺伝子変異ラットを作製するため、変異遺伝子のスクリーニング技術と、凍結精子からの個体復元技術が必要となる。前者については、トランスポゾンMuとDNAプーリング法を組み合わせた、廉価で、短時間、効率的にスクリーニングを行うことができるMuT-POWER法を開発した。後者については、ヒトの不妊治療などにも使われている顕微授精法を利用している。このミュータントアーカイブは、NBRP-Ratに寄託されており、ヒト疾患モデルラットを作製するための有力な資源となる。

語彙説明

  • トランスポゾンMu:
    トランスポゾンとは、ゲノム上のある部位から他の部位へ転移する遺伝因子である。Muファージ由来のトランスポゾンは、二本鎖DNAのミスマッチ配列を特異的に認識して、転移反応を引きおこすことができる。この性質は国立遺伝学研究所の柳原克彦准教授らにより発見された。
  • DNAプーリング法:
    たくさんの検体について遺伝子解析を行う際、個々のDNAを混ぜて一度に解析することで、時間、労力、費用を節約して、効率よくスクリーニングを行うことができる。
  • 朝日新聞 (5月12日 21面) 、京都新聞 (4月29日 29面) 、日刊工業新聞 (4月30日 15面) および日経産業新聞 (5月1日 9面) に掲載されました。