分子で発見した夫婦の「絆」~ある熱帯魚でのはなし

分子で発見した夫婦の「絆」~ある熱帯魚でのはなし

2011年11月23日


高橋研究員

 高橋鉄美 理学研究科研究員(生物科学専攻動物生態学研究室)らの研究グループが、アフリカのタンガニイカ湖に生息するシクリッド科魚類Xenotilapia rotundiventralisにおいて、「夫婦の絆(ペアボンド)」を分子生物学的に見付け、この研究成果が英国王立協会の専門誌「Biology Letters」電子版に掲載されました。

研究の概要

 「夫婦の絆」に注目することは、動物の社会構造を解明する上で重要です。一般に、ペアを作る生物ではメスとオスが一緒に行動するため、どのメスとどのオスがペアを作っているのか、見た目で分かります。しかし、X. rotundiventralisは水中に高密度の群れを作るため、見た目だけではペアが維持されているのかどうか分かりません。そこで、分子生物学的手法を用いました。

 この魚は、メスとオスの両方が口内で子供を育てます(口内保育)。そして、メスの口には卵から大きな稚魚まで、さまざまなサイズの子供が入っているのに対し、オスの口には大きな稚魚しか入っていません。このことから、最初はメスが口内で卵や小さな稚魚を育て、稚魚がある程度大きくなってからオスに渡すことが分かっていました。しかし、オスが自分の交配相手から子供を受け取っているのか、つまり、オスが自分の本当の子供を保育しているのかは、分かっていませんでした。

 そこで本研究では、口内保育をしている大人の個体と、その口の中の子供の親子関係をDNA判定しました。すると、メスもオスも、口内の子供の本当の親であることが分かりました。このことから、メスは自分が生んだ子供を口内保育し、オスは、自分が受精させた子供を交配相手のメスから受け取っていることが分かりました。このことは、少なくとも、産卵から子供の受け渡しまでの期間、夫婦の絆が維持されていることを示します。

 本研究は、見えない「夫婦の絆」を検出した初めての研究です。また、「夫婦の絆」を維持する魚は普通、2匹だけの縄張りを作って、他個体の侵入を拒みます(一夫一妻)。多くの夫婦が集まって群れを作る魚の発見は今回が初めてで、とても珍しい現象と考えられます。

   

  1. Xenotilapia rotundiventralisの群れ。左上の、口が膨らんでいる個体が、口内保育中の成魚。雌雄は分からない。

関連リンク

  • 論文は以下に掲載されております。
    http://dx.doi.org/10.1098/rsbl.2011.1006
    http://hdl.handle.net/2433/150939 (京都大学学術情報リポジトリ(KURENAI))
  • 以下は論文の書誌情報です。
    Takahashi T, Ochi H, Kohda M, Hori M. Invisible pair bonds detected by molecular analyses Biol. Lett. published online before print November 23, 2011, doi:10.1098/rsbl.2011.1006

 

 

  • 朝日新聞(11月24日夕刊 11面)、京都新聞(11月24日 3面)、産経新聞(11月24日 24面)および毎日新聞(11月24日 24面)に掲載されました。