2025年春号
輝け! 京大スピリット
2023年度久能賞受賞
金藤 栞さん(農学研究科 博士後期課程1回生)
シャープペンシルの芯の断面ほどの小さな害虫・ハダニ。頻繁に世代交代し、すぐに農薬抵抗性を獲得することから、「害虫の王者」と称される。そんな農家にとっての厄介者に対抗する鍵が、意外にもイモムシの足跡にあることがわかった。発見したのは大学院農学研究科に在籍する金藤栞さんの研究チーム。金藤さんはその熱意が評価され、2023年度京都大学久能賞を受賞した新進気鋭の研究者だ。
「高校時代から生物の授業が大好きでした。生物の知識を深めるだけでなく、社会に役立つ場面を思い描きながら研究したくて、農学部に進学しました」。転機となったのは、3回生の頃。コロナ禍で先行きが見えない不安を抱えるなか受講した実習で、ハダニが天敵であるアリの足跡を避けることが判明したと知った。「アリがハダニを食べ、ハダニがアリとの遭遇を避けることで保たれる生態系の秩序に感動しました。しかも、ハダニの生態を解明すれば農業にも貢献できる。『これだ!』と一筋の光が射しました」。
学部では植物がハダニにどう抵抗しているかに注目したものの、面白味を感じられず行き詰まった。卒業研究で別のテーマを模索するなか見つけたのが、「イモムシは草食だが、ハダニのいる葉もお構いなしに食べる」という研究だった。「大きなイモムシだとそのサイズはハダニの200倍にもなり、ハダニからすればいわば巨大災害。アリと同様に、イモムシがハダニにとって脅威なら、その足跡を調べると面白いのではと思いついたんです」。壁を越えてからは研究が俄然楽しくなり、ついにハダニがイモムシの足跡を避けることを突き止めた。
飼育用のシャーレ。水を張ったシャーレに浮かぶ一枚の葉には、約500匹のハダニが生息する
ナミハダニ
イラストは専用のソフトではなく、プレゼンテーション用ソフトの作図機能を駆使して自作
研究の楽しさを知るからこそ、情報発信にも意欲をみせる。「興味深い成果がでても、専門家しか知らないのはもったいない。研究で扱う世界は、とても小さかったり大きかったりして目に見えないことも多く、一般の人には想像しづらいと思います。だからこそ、誰に届けたいか、届けるにはどう発信すればいいかを日々考えています」。プレスリリースでは自作のイラストを駆使して研究概要を図で表現。金藤さんが感じた驚きやわくわくが存分に伝わってくる。
学部時代はスキー競技部の活動にも打ち込んだ。写真は第93回全日本学生選手権大会のリレーで3位入賞を果たした際のメンバーとの一枚(右端が金藤さん)
2024年4月からは博士課程に進学し、研究を続けている。「自然界の秩序を保つ生物の営みは、まだまだ未知ばかり。『この分野を完成させよう』という大それた野望はありませんが、生物の生態を一つでも多く科学的に解明したい」。小さな世界にさらなる自然の神秘を求めて、虫愛づる研究者は今日も顕微鏡を覗き込む。
>> 京都大学久能賞