2024年春号
輝け! 京大スピリット
2022年度京都大学久能賞
松野ななさん(理学部4回生)
「宇宙のすべてを自分の手の中で再現する」。太陽の動きを再現するには、スーパーコンピュータでも年単位の時間がかかる。ましてや、厖大な宇宙全体など――。2022年度京都大学久能賞を受賞した松野ななさんが挑む、果てなき世界。コンピュータ上で全宇宙の動きを俯瞰できれば、宇宙の始まりから終わり、そして人類の起源にも迫れるかもしれない。
生まれ育ったのは、星明かりが夜を包む香川県三木町。晴天が多く、高層建築物のないこの地では、見上げずとも目の前に雄大な天の川が広がる。小学生の頃は天文教室に通い、四方八方の天体を観測した。「宇宙の魅力は万物に通じるスケールの大きさ。天体から星座、神話、物理法則など、多様な分野へのリンクを見つけては辿って……」。はつらつと語る目に、夜空に輝く星のような光がのぞく。
天文学への飽くなき探究心を抱き、京都大学の門を叩いた。転機は、2回生で出会ったシミュレーション天文学。「宇宙の現象を方程式に落とし込み、プログラムを動かしてコンピュータ上に宇宙を描き出す。これがおもしろくて、『もっと突き詰めたい』と理学部の教授に直談判すると、迷いなく『よし、やろう!』と言っていただいたんです」。毎週勉強会を開き、1年後には宇宙の構成要素のひとつを再現する、独自のコードの開発に成功した。
研究のみならず、宇宙の魅力の発信にも力を注ぐ。松野さんが代表となり、友人たちと学生団体「あすちか」を旗揚げ。名前は「天文学(Astronomy)を身近にする」という目標から。「遥か遠い宇宙も、手を伸ばせば触れられる。宇宙は私たちの暮らす世界と同じ世界にあるもの。この実感が、宇宙をぐっと身近にするはず」。
現在、あすちかでは小学生向けの天文教室を鋭意企画中。「専門用語は噛み砕いてわかりやすく。科学的な正しさとワクワク感の両立が悩みどころ」とはにかむ。天文教室の恩師たちの力も借り、12月には松野さんの母校で第一弾を実施する。思いに賛同した新メンバーも加わり、来年以降は京都市内外での活動を目論む。「考えに共鳴して、人から人へと星座のようにつながっていく。協働することで、さらなる挑戦ができるんです」。
卒業後は最先端のシミュレーション天文学を学ぶべく、海外留学も視野に入れる。「宇宙の虜になった私だからこそ、掴み取れることがある」。その確信が、新たなステップに足をかける松野さんの背を押す。宇宙をこの手に――そう語る松野さん自身が一番星のようなきらめきを放っている。