2022年春号
輝け! 京大スピリット
囲碁部 部長
立木 実さん(理学部3回生)
「19×19路の宇宙」とも例えられる広大な盤で繰り広げられる頭脳戦、囲碁。最大の魅力は十人十色の個性が出せる自由さだ。
雨模様の夕方、取材で訪ねた一室には静かな緊迫感があった。「大会を間近に控え、部内戦の真っ只中です」。練習中の部員の集中を邪魔しないようにと声を潜める部長の立木実さん。囲碁部の快進撃の立役者だ。とはいえ、コロナ禍にあって道程は険しかった。「部室の使用が制限され、どう活動するか難しかった」。部のつながりを保つために始めたのがLINEのグループ通話を活用した「オンライン部室」。「対局する人、雑談する人、それをラジオ代わりに聴いている人……。気軽に集まれるあの空間を再現したかった」。ほぼ毎日誰かが入室し、思い思いの時間を過ごす。真剣な対局や反省会が始まることもしばしばだ。
結束は強まったが、コロナ禍は長期化。大会の出場さえ危ぶまれた。「強い部員が揃った今年はチャンス。なんとしても出場したかった」。立木さんは、煩雑を極める事務仕事に奔走。「代表選手になれなかった悔しさはありましたが、優勝に貢献したい一心でした」。裏方に徹する立木さんに部員たちの信望は厚い。控えめな立木さんに代わり、「卓上の飛沫防止パネルは彼の手作り」と誇らしげな声が飛ぶ。
迎えた春季関西リーグは、2019年度の学生日本一の立命館大学との一騎打ちとなった。「長らく後塵を拝してきましたが、『今年こそは勝てる』と思いは一つでした」。しかし、2勝2敗となり、勝負を賭けた残り1戦は苦しい形勢となっていた。逆転の決め手は〈執念〉。粘った末に繰り出した渾身の1手が相手のミスを誘う。「勝負手が奏功し勝ちがみえた時、石を持つ指はガタガタと震えていました」。宣言通り6年ぶりのリーグ優勝を勝ち取った。
破竹の勢いは止まらず、取材後に開催された秋季関西リーグ、全日本大学囲碁選手権でも優勝し、日本一に輝いた。とりわけ全日本戦では、個人でも32勝3敗と圧倒的な成績を収めた。「焦る場面もありましたが、チームの底力を発揮し押し切りました。私が部長の代に日本一になれたのは、えもいわれぬ嬉しさです」。
強豪校とわたり合うほどの棋力の秘訣は部員同士の「教育」。「対局後には必ず〈局後検討〉をします」。ポイントは「言語化」。対話を通じて、自己の手を見つめ直すという。「着手には根拠があります。『なぜこの手を打ったのか』をとことん言葉にして分析します」。「理由」をつき詰めながら、1手への感性を研ぎ澄ませる。「強い人は感覚が鋭いのです」。
新歓用に作成した囲碁部公式LINEアカウントも機能し、初心者からプロ志望まで幅広い部員が集う。「それぞれの姿勢で、囲碁にまっすぐに向き合える環境が魅力」とのこと。
取材を終えた一室に、なおも盤を打つ碁石の音が響く。全日本の大会で努力が結実した囲碁部の快進撃はまだまだ止まらない。
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