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2021秋号

輝け!京大スピリット

眼では見えない量子の世界
磁場をあやつり物性をあぶりだす

第13回京都大学たちばな賞
村山陽奈子さん(理学研究科博士後期課程2回生)

村山陽奈子さん

案内された実験室には、用途の想像すらつかない装置がずらり。目に飛び込んできたのは、ドラム缶のような形状の円筒型の実験装置。「磁場を発生させる超伝導コイルです。稼働すると近くの椅子が引き寄せられるほど強力ですよ」。装置を囲むバリケードテープをくぐり、村山陽奈子さんは慣れた足取りで奥に進む。「物質に磁場をかけると、磁気トルク量という回転力が生じます。これを測定し、磁気を帯びた物質がどのような性質をもつのかを探っています」。

村山さんが探究するのは、物質の最小単位とされる電子や原子の世界。20世紀初頭に量子力学が誕生すると、古典物理学の枠では説明できない現象が次々と発見され、コンピュータなどの技術の礎となった。「所属する量子凝縮物性研究室は、極低温環境での電子の動きに着目しています。熱ゆらぎの影響が最小限になるので、物理量を精密に測定できます」。数ある物質から、村山さんの研究グループが選んだのは銅酸化物。冷却すると電気抵抗のなくなる「超伝導」を示す物質として30年以上も前に報告されながら、超伝導の発現機構は未解明のまま。

物質中の電子の状態を調べるときに活躍するのが冒頭の超伝導コイル。しかし、測定する物質は約100μmと小さいうえ、わずかなズレや条件の違いで、結果は大きく変わる。「試行錯誤をしながら装置を工夫し、磁場の向きを厳密に調整できる環境を整えました」。クールな語り口ながらもほころぶ顔からは、安堵と喜びがこぼれる。

実験で得たデータの解釈も、研究の大事な柱。「データが意味することを読み取らなければ、論文になりません。専門分野の違う研究者との議論が大きな助けになりました」。実験と理論との両面を積み重ね、銅酸化物が超伝導状態に近づく過程で、物質中の電子が特殊な配向を示すことを発見。優れた研究成果を挙げた若手女性研究者を顕彰する、京都大学たちばな賞の受賞につながった。村山さん曰く、量子の世界とは「無数の電子が相互作用し、常識や直感では想像できない複雑な現象が起こる世界。予想外の物性はまだまだ隠れているはずです」。

最先端の測定技術を誇る研究室で研鑽(けんさん)を積み、測定のイロハを叩き込んだ村山さん。量子物性の分野では、半導体、高温超伝導など、数十年おきに新トピックが現れ、そのたびに実験で扱う物質のトレンドも変化する。次なる目標は、「オリジナルの研究」だと意気込む。「実験技術の進歩で物性測定が容易になり、測定だけでは差別化をはかりづらくなりました。これまでの実験試料は協力機関から提供を受けたものでしたが、試料の開発にも挑戦し、自分だけの研究を打ち立てたい」。摩訶不思議な世界の一端を解明し、求心力を増す村山さんの磁場。次に引き寄せられるのはどんな物質だろうか。

熱伝導測定。3本の金線をつないでいるのが結晶

実験で測定した銅酸化物結晶。ひと目盛は20μmという極小世界

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