2020年春号
輝け! 京大スピリット
カルラ・ラバット・デ・オス(Carla Labat de Hoz)さん
文学研究科 ハイデルベルク大学 HCTS 国際連携文化越境専攻 2回生
ノートには文字が整然と書き込まれ、4色のマーカーで色分けされている。「オレンジ色は日本語の表現です。母語でない日本語の膨大な資料を読むので、自分にあう整理方法を考えないと」。
スペインの大学で、日本のLGBTQIのアイデンティティについて研究していたラバットさん。上智大学での留学中に、当事者の生の声を聞くために「東京レインボープライド」でインタビューを試みた。「見えてきたのは、LGBTQIの人たちが抱える生きづらさ。医療機関での面会・説明を受ける権利や相続権など、異性の夫婦に認められる法的な権利が同性カップルには保障されない現状や、学校や職場での差別の事例は数えきれません。しかもそれはほんの一部です」。一方、スペインは2005年に同性婚を合法化。LGBTQIであることを公表しやすい環境を知っているだけに、この「生きづらさ」への関心は高まるばかりだった。
卒業論文を書き終えて痛感したのは、日本の性的マイノリティに関する研究の遅れ。「どんどん変わる現実に理解が追いついていない。日本語でしか手に入らない資料も多く、ヨーロッパでは研究の限界を感じました」。日本のLGBTQIのアイデンティティについて研究する機会を得るため、京都大学・ハイデルベルク大学国際連携文化越境専攻に進んだ。
「日本のLGBTQIのアイデンティティは、西洋と日本の文化が接触し関係性を結ぶことにより確立したというのが私の考えです」。ラバットさんが扱う資料は、明治時代の終わりから1990年代に出版された書籍や雑誌、医学ジャーナル、新聞、LGBTコミュニティが残した記録など。「こうしたさまざまな資料から、海外の影響や国内の政治・文化などがどのように作用しあったのかを俯瞰できるはずです」。
古い資料は言葉遣いなどが現代とは異なり、日本人でも読みにくいものもある。日本語の資料を読み、英語で修士論文を書くことは、ラバットさんにとっては大きな挑戦だ。「修士論文をもとに、国際ジャーナルにも論文を投稿するつもりです。国際的な学術ネットワークに英語で発信すれば、日本語でしか知りえない事実や研究内容を海外の研究者に伝えられる」。辞書を片手に外国語を一語ずつ追うラバットさんの姿は、明治時代に西洋の学術・文化の用語を日本語に翻訳し、国内に取り入れた日本の学者たちと重なる。
文化越境研究の基本にあるのは、多様な人や概念、制度が接触し関係しあうことで文化は醸成されるという考え方。スペイン、ドイツをへて日本で研究するラバットさんの論文が、日本研究の分野にどんな化学反応をもたらすのか。彼女の言葉に気負いはない。むしろワクワク感に満ちている。
>> ハイデルベルクコースHP