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輝け!京大スピリット

2019年春号

輝け! 京大スピリット

茅葺屋根のむこうに望むトルコの未来

Var Elif Berna(ヴァル エリフ ベルナ)さん
地球環境学舎 博士課程3回生

ノックした研究室のドアの隙間からのぞいたのは、大輪のヒマワリのような笑顔。母国トルコのイェディテペ大学で建築学とランドスケープ・アーキテクチュアを学んだエリフさんは、修士課程では都市デザインを専攻し、トルコの伝統家屋の危機的な状況を知った。鉄筋コンクリートの近代建築が主流になる中、釘を使わない組み木の技術で建てる伝統家屋は減少の一途。保全活動は都市部に限られ、農村部は手が打たれていない。都市部で生まれ育ったエリフさんには、農村の伝統家屋の景観はなおさら貴重に映ったという。日本には、合掌造りなどの伝統家屋を村ぐるみで保全する事例がある。その考え方はトルコでも活かせるのではないかと、エリフさんは2016年の春に京都大学の大学院に進学した。

2017年12月、エリフさんは富山県相倉(あいのくら)集落に9日間滞在した。農業や民宿、商店などを営む6戸の民家に宿を借り、観光事業が集落に与える影響などを調査した。

博士課程の3年間を「特別な経験」と話す。各国からの留学生や日本の学生との交流から、トルコの文化に気づくこともあるという。

ある滞在先でのこと。民宿を営むお母さんは足が不自由で、仕事では息子さんの助けが欠かせない。ある日、不在の息子さんに代わってエリフさんが手を差しのべるも、お母さんは、「エリフはお客さんだから、私一人で大丈夫」と遠慮がち。「お世話になっているお礼がしたくて、『手伝いたい』と繰り返すと、お母さんの目がふっと緩みました。その表情が忘れられない。年明けにはお礼の年賀状が届きました。数か月後に、仕事で日本に来た父が私に代わってトルコのお土産を届けると、手作りの小さなお手玉を送ってくれました」。「お客さん」の一線を越えられたよろこびを、身振り手振りを交えて表現するエリフさん。

相倉集落の合掌造りの民家

それもそのはず。異国での調査の難しさはたびたび感じてきた。トルコであれば、気になる家屋があれば気軽にドアを叩けるが、日本ではそうはいかない。「家の中を見せてほしいと、初対面でお願いするのは失礼な気がして、一歩引いてしまう。でも、もっと思いきってお願いすればよかったかも」。

そう苦笑いするも、その表情は日本で学ぶ充実感に満ちている。「日本には、住民や研究者、行政の人たちが一緒になって地域を盛り立てようとする雰囲気があります。五箇山の取り組みもその一つ。トルコ政府からは、論文をぜひ提供してほしいと依頼されました。木造建築への興味から始めた研究が、トルコのためにも役立つのは幸せなことです」。

トルコの農村の風景。手前に見える伝統家屋に対して、白く目立つのが新しいコンクリート造りの家屋

将来の夢は、住民と一緒になって地域のために動ける研究者になること。調査資料で分厚く膨れたノートは、地域住民との信頼関係の証。地道な対話を礎に夢を追うエリフさんの目には、トルコの未来が見えているようだ。

トルコでも日本でも、聞き取り調査では住民の気持ちを引き出しながら話を聞くようにしている

トルコでの調査資料。相倉集落では住民の話を夢中で聞き取るので、トルコ語、英語、日本語のミックスで書き留める

国際色の豊かな研究室。毎回のゼミのあとには「アフターパーティ」を開き、交代で自分の国の料理をふるまう

7歳の頃、家族で1年半ほど岡山県に滞在。異国での暮らしに毎日泣いてばかりだった。「でも日本のクラスメイトがいつも助けてくれて、帰るころには日本を離れたくなかった(笑)」

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