2017年春号
「教養・共通科目」潜入レポート 少人数教育科目群
少人数で議論を深める「ポケット・ゼミ」の授業スタイルを踏襲し、開講数を大幅に増やして2016年度から新たに導入されたのが「ILAS(アイラス)セミナー」。学生たちに提供するのは、「みずから問題を見つけだし、解決する」という、「主体的な学び」の場。高等学校までの「受け身の授業」スタイルに慣れている一回生には、挑発的な授業だといえるだろう。
個性あふれる京大生たちの好奇心と知識欲を埋もれさせないようにと、2017年度に教員たちが熱を込めて準備したのは305もの科目。学問分野、フィールド、授業スタイルは多岐にわたり、なかには講義やレポートをすべて「英語のみ」で貫く科目もある。多くても25名以内というクラス編成。教員や仲間たちと密度ある時間を共有し、ときには深遠なる学問の世界に怯えつつ、新たな一歩を踏み出してみよう。
膝詰めで、じっくりと「哲学」したい!
安部 浩教授(人間・環境学研究科)
キーワード:西洋哲学
西洋哲学の古典中の古典、カントの『純粋理性批判』の「序論」を中心に講読。英訳本を基本とするが、ドイツ語の原典も適宜参照。西洋思想史上の基礎的な問題の所在を確認し、クラス全員で討議する。
一つの作品をつくりあげたい!
土佐尚子教授(情報環境機構)
キーワード:芸術映像表現/映画制作/物語技法/映像編集
人の心に訴える映像の制作を目的に、物語のしくみを研究する。登場人物の考察や観客の誘引、ストーリー要素、映像表現、効果音などの講義をもとに、作品を制作する。
地域の人たちの声を聞きたい、ふれあいたい!
坂本龍太准教授(東南アジア地域研究研究所)
キーワード:フィールド医学/地域研究/高齢者ケア
高知県土佐町での合宿で、超高齢社会の現状を体感。医師や保健師、教員の指導のもとに、土佐町在住の75歳以上の高齢者たちを訪ね、インタビューと医学検診を体験。
実体験から学びたい!
稲村達也教授、井上博茂講師(農学研究科)
キーワード:水田と畑/栽培管理/環境問題/六次産業
農作物の生育と生育環境を縦糸に、農業の機械化と化学化、生産物の加工販売などを横糸にして、農業の変容過程を解説。夏期休暇を利用した2泊3日の体験実習で、除草、肥料散布、野菜の収穫、加工と販売などを体験する
私の「幸せ」ってなんだろう
石原慶一教授(エネルギー科学研究科)
キーワード:幸福/社会/環境/エネルギー
現代社会に生きる私たちにとって、真の豊かさ、幸せとはなんだろう。お金があって、エネルギーをたくさんつかう生活は豊かといえるだろうか。「豊かさ」をキーワードに、現代社会の抱える問題点を浮き彫りにし、理想の社会像を描きだす。
学外に飛びだし、調査がしたい!
瀬戸口浩彰教授、阪口翔太助教(人間・環境学研究科)
キーワード:高山植物/生物多様性/環境/フィールドワーク/観察と気づき
座学と計四回の日帰り実習で基礎知識を蓄えたのち、3日間の合宿で長野県の木曽駒ヶ岳の植物を観察。座学の生物学だけでは実感しづらい「生物多様性」を、野生植物をとおして学ぶ。
自然とふれあい、学びたい!
朝倉 彰教授、中野智之助教(フィールド科学教育研究センター)
キーワード:森里海連環学/東日本大震災/漁業/植樹/生物多様性
宮城県気仙沼市を訪れ、沿岸海域と、隣接する陸域の生態系の観察をとおして、「森と川と海のつながり」を学ぶ。東日本大震災から復興しつつある自然と社会、人と自然のつながりについても学習する。
授業に潜入!学生目線で授業を体験しました
ILAS Seminar-E2 :Introduction to Bird Study(Ornithology)——主として1回生対象
Craig Barnett特定准教授
理学研究科 生物科学専攻動物学系動物生態学研究室
ここがポイント!ほかの野生動物とくらべれば鳥類は、私たちにはみぢかな存在。通学途中の街路樹やキャンパスのあちこちで姿を見かけるし、教室の窓からは鳴き声も聞こえる。鳥類の形態、生活史、生態の解明や、保全の現状など、さまざまな側面から鳥の魅力に迫る。
授業計画
鳥類の多様性(鳥類の進化史と分類)/羽毛と飛ぶこと/鳥の生理機能/感覚と脳と知性/鳥類のコミュニケーション/鳥にとっての季節のめぐりと渡り/鳥の社会行動/つがいを見つけて繁殖するシステム/鳥類の生殖機能/親鳥と雛鳥/鳥類の数と種とコミュニティ/鳥の会話
卵を温める鳥(留巣性、ツバメなど)と温めない鳥(離巣性、アヒルなど)の2種類がいるんです。
鳥は種類によって卵の大きさや数が違います。たとえば、アホウドリなどの大きな海鳥は一つしか卵を産まないのに対して、キジなどは20個も卵を産みます。
ヒトにはXX(雌)とXY(雄)の染色体があり、「Y」の有無が性別を分けますが、鳥の染色体はZW(雌)とZZ(雄)。雌鳥のW染色体が雛の雌雄を決定します。
卵の中の雛鳥は、親鳥が温めはじめる(抱卵)と同時に育ちはじめます。決まった産卵数をすべて産み終えてから抱卵をはじめる親鳥もいれば、すべての卵を産み終えるまえに抱卵をはじめる親鳥もいます。抱卵から孵化までの日数は決まっているので、はやく抱卵をはじめた卵から孵化します。すると、はやく孵った雛はほかの雛よりひとあしさきに餌を食べられますから、ほかの雛よりもはやく大きく育つことができるのです。
すべての親鳥がこうして抱卵の時期を変えるわけではありません。卵をどのような順番で孵化させるかは、親鳥の個性に関係すると考えられています。攻撃的な親鳥は、卵に順番をつけて温め、体つきの大きな雛にしようとします。じょうぶで体が大きいほど生存率が高まるからです。その場合、雛は雄であることが多いのです。親鳥は、卵の中の雛が、雄か、雌かわかっているのかもしれません。
鳥類はとても魅力的です。一万種を超える仲間がいるといわれますが、外見は同じでも、生息域が違えば行動が違う鳥がいます。それらを違う種類とするならば、種類はもっと増えるでしょう。進化論の観点でも謎が多く、絶滅したといわれる恐竜の子孫は、鳥類として生きているという見方もあります。外見や鳴き声の美しい鳥たちは、古くから愛玩動物として親しまれてきました。形や生態だけでなく、芸術・文化を彩る存在としても、鳥の魅力は尽きません。
子どものころは医師を夢見ていましたが、生物学に出会い、抜け出せなくなった(笑)。医師になることを望んでいた母を悲しませることになりましたが、私の人生だからしかたがない。自分の居場所を、生物学に見つけたのです。
生物学でなによりだいじなのは、自然を愛すること。ふところの深い自然は、どこをとっても研究のフィールド。学生のみなさんと、鳥類の魅力を語りあかしたいですね。
対象は同じ鳥類ですが、前期のこの授業では、生態学に欠かせないフィールド調査を軸に据えています。狭い教室を飛びだして、京都市や近郊の都市に出かけ、みんなで鳥を追いかけるのです。フィールドの環境の違いが、生息する数や種類にどう影響するのかを考察します。プレゼン発表が最終課題ですが、データベースへの蓄積や学術誌への投稿も視野に入れて指導します。前期の科目が実践重視の〈動〉だとすれば、後期は学問の基礎を築く〈静〉の授業。でも、鳥類への熱い思いはどちらも同じですよ。
Craig Barnett
1972年にニュージーランドのロトルアに生まれる。2007年にイギリスのニューカッスル大学で博士号を取得。アメリカや中国などの大学勤務をへて、2016年から現職。