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京大スピリット 田和優子さん

2016年春号

輝け!京大スピリット「京大流! 武者修行」

私だけが知る「この子」の姿を追って、いざ野生動物の王国へ

田和優子さん
大学院理学研究科 生物科学専攻 博士後期課程3回生

ここ数年、野生動物の生態を紹介するドキュメンタリー番組が増えている。「あの世界に足を踏みいれると、〈この子〉がいるなんてワクワクしませんか」。

野生動物研究センターで研究する田和優子さんが追いかけるのは、上唇と一体となって伸びた鼻が印象的な哺乳類のバク。「野生のバクを対象とする研究者は日本人で私だけ。私が辞めれば、はたしてつぎに現われるかどうか……。『私がやるしかない』という使命感に燃えています」。

バクは約2,000万年前から現在とほぼ同じ姿であることから「生きた化石」といわれるが、「動物園で見るバクはのんびり者。これでどうやって生き残ってきたのか。そんな疑問が出発点でした」。動物園などに通いつめ、飼育下での観察をつづけて2年めの秋、「野生のバクを見たい」と満を持してマレーシアの熱帯雨林に飛び込んだ。調査地は、地面から湧くミネラルを求めて多様な動物が訪れる「塩場」だ。

バクは絶滅危惧種で夜行性。野生下の観察はむずかしく、求愛や生殖行動、同性どうしでのコミュニケーション方法など、謎は多い。野生の姿をとらえようと、田和さんは動きを感知してシャッターが下りるカメラトラップを塩場に設置し、静止画や動画の撮影を試みた。「そうかんたんに野生の姿を見られるはずがない」とあきらめ半分で確認した動画には、塩場を歩くバクの姿が映されていた。「現地で足跡を見つけただけでも感動したのに、まさかの『動くバク』の姿に胸が高鳴りました」。

田和さんをさらに驚かせたのは、単独行動をするはずのバクが雌雄でいる姿や互いの鼻をすりあう姿。これまでの知見をくつがえす行動に、研究者魂はメラメラと燃えあがる。「予想が外れて困るなあと思いつつも、ワクワクしている私がいます。記録をつづければ、バクの社会行動を知る手がかりになるはず」。

研究者として邁進する田和さんの休日の趣味は、研究者目線を捨てて「かわいいねえ」とつぶやきながらバクの動画をながめること。「根っからの動物好き」。これが田和さんの〈野生下〉の生態なのかもしれない。

研究協力している熱帯雨林研究センターの所長(右)とセンターを運営するプラウバンディング財団のスタッフ(左)といっしょに

研究協力している熱帯雨林研究センターの所長(右)とセンターを運営するプラウバンディング財団のスタッフ(左)。「スタッフはみなさん英語が話せるので、いまだに私はマレー語が話せません」

研究対象のバク

塩場に一個体、あるいは雌雄のペアでバクがいると、べつの個体は寄りつかず、塩場の利用時間がかぶらない。「他の個体を避ける」という仮説をたてて、データ集めに奔走中

ダム湖をボートで進む

ダム湖の真ん中に浮かぶ島に研究センターや観光客用のリゾートホテルがある。島からボートで接岸し、周囲の森に奥深く分けいる

バクのグッズ

バクのグッズはめずらしいので、見つけたら迷わず買ってしまうという。「野生動物研究センターの人たちは、たいてい研究対象のグッズを集めていますから、机を見れば、なにを研究しているのかすぐわかるんです(笑)」

カメラを設置するようす ゾウやトラが撮影されることも

熱帯雨林は野生動物たちの王国。設置したカメラをゾウに壊されることもしばしば。「カメラに鼻を伸ばす瞬間が写っていたこともあります。私たちが訪れた2時間後に、捕食のために塩場を訪れたトラが撮影されていたことも。フィールドには危険がともなうと実感しました」

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