英国エディンバラ大学医学評議会(MRC)再生医学研究所(CRM)と京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)は、合同シンポジウム「Next Generation Stem Cells: Tools and Technologies」をエディンバラ大学で開催しました。
シンポジウムでは両機関の研究者10人が講演し、約150人が参加しました。各講演では最新の研究成果とともに、多能性幹細胞(ES/iPS細胞など)の医学および産業応用に向けた技術や取り組みなどが発表されました。座長はチャールズ・フレンチコンスタント MRC-CRM所長と同理事長のイアン・ウィルムット卿が務めました。
「更なるディスカッションとコラボレーションにつながれば」と前置きして講演を始めたティロ・クナス MRC-CRMグループリーダーは、直前に中辻憲夫 iCeMS拠点長や上杉志成 同教授が発表した内容を自身の研究と照らし合わせ、そのつながりを講演スライドに反映させて発表しました。
座長から「私たちエディンバラの研究者が強い関心を寄せている」との導入紹介を受けた仙石慎太郎 iCeMS准教授の講演「バイオメディカル産業クラスターのイノベーションマネジメント:エディンバラ大と京都大の比較分析」では、参加者との特に活発な意見交換が行われました。
ヤン・チェン iCeMS教授は、インターネットを介してパリから遠隔参加しました。講演者の1人であるマーク・ブラッドリー エディンバラ大学教授とは、幹細胞を制御するエンジニアリングのアプローチにおいて多くの共通課題を持つため、チェン研究室からは亀井謙一郎 iCeMS助教も講演者として参加し、積極的な学術交流を図りました。
今回のシンポジウムの共催は、昨年のウィルムット卿らによるiCeMSでのセミナー、続く相互の訪問、そして今年3月の学術交流協定の締結を経て実現しました。閉会にあたりフレンチコンスタント所長は、「こうした交流を今後も続け、共著論文の発表や共同研究など具体的な成果につなげていきたい」と展望を語りました。中辻拠点長が賛同の意を表すとともに謝辞を述べ、シンポジウムは盛会のうちに終了しました。
シンポジウム後は、総工費6千万ポンド(約76億円)のMRC-CRM新棟を視察する時間が設けられました。フレンチコンスタント所長は「若い頃、マサチューセッツ工科大学(MIT)の施設に感銘を受けた。研究設備が充実していただけでなく、建物が芸術的なまでに美しかった。有能な若手研究者を惹きつけるためには、その両方の要素が大切だと感じている。エントランスは、アートも楽しめるスペースにする」と紹介されました。また、立地や関連施設との連携については、「エディンバラ大の病院や医学研究所と隣接していて、更にバイオメディカル系ベンチャー企業を受け入れるためのインキュベーション施設も間近に建設している。基礎研究から臨床応用までを同じ敷地内で実施可能な点と、再生医療を産業として育てるための包括的な仕組みが強み」と説明されました。
また、研究室間の交流を促進するため、共用実験スペースや全面ガラス張りの教授室が重点整備されていました。iCeMSで取り入れている研究環境コンセプトでもあり、組織づくりの共通点と言えます。新棟には今年9月下旬、フレンチコンスタント研究室を皮切りに、順次入居が始まる予定です。
講演者・演題リスト
- Professor Charles ffrench-Constant: Director's Introduction
- Professor Norio Nakatsuji: Multi-disciplinary research and application of pluripotent stem cells for disease mechanism research and drug discovery
- Dr. Dave Hay: Generating Metabolically Active Hepatocytes from Pluripotent Stem Cells
- Professor Motonari Uesugi: Small Molecule Tools for Cell Biology and Cell Therapy
- Dr. Tilo Kunath: Human iPS and ES cells to model neurodegenerative diseases
- Dr. Ludovic Vallier: Genome editing in human induced pluripotent stem cells.
- Dr. Shintaro Sengoku: Study on innovation management for biomedical industrial clusters – case comparison of Edinburgh and Kyoto
- Professor Mark Bradley: Polymer microarrays and the rapid identification of substrates for controlling stem cells
- Dr. Kenichiro Kamei: Micro/Nano-engineered environments for controlling pluripotent stem cells
- Dr. Keisuke Kaji: Reprogramming – from technology to biology
- Professor Claus Nerlov: Lineage specification in the hematopoietic system
シンポジウムの写真
![]() 会場となったエディンバラ大学クイーンズ医学研究所(QMRI) | ![]() QMRI内 |
![]() シンポジウム会場内の様子 | |
![]() 開会挨拶をするフレンチコンスタント所長、中辻拠点長、デイヴィッド・ヘイ MRC-CRMグループリーダー | |
![]() イアン・ウィルムット卿、上杉教授、ティロ・クナス MRC-CRMグループリーダー | |
![]() ルドヴィッチ・ヴァリエ ケンブリッジ大学幹細胞イニシアティブ主任研究者、仙石准教授、ブラッドリー教授 | |
![]() 亀井助教、梶圭介 MRC-CRMグループリーダー、クラウス・ネルロヴ MRC-CRMグループリーダー | |
![]() 手前左から、中辻拠点長、ブラッドリー教授、フレンチコンスタント所長、亀井助教 | ![]() パリから遠隔参加したヤン・チェン 教授(右・画面内) |
![]() 講演者と意見を交わす中辻拠点長(手前中央) |
MRC-CRM視察の写真
![]() エディンバラ大学MRC-CRM新棟外観 | ![]() エディンバラ大の学生からインタビューを受ける中辻拠点長 |
![]() 新棟の設備を紹介するゴードン・マクリーン MRC-CRM最高執行責任者(右) | ![]() 新棟の設備を紹介するフレンチコンスタント所長 |
![]() バイオメディカル系ベンチャーを誘致するためのインキュベーション施設(奥) | ![]() フレンチコンスタント所長と中辻拠点長 |