有機的な学校組織構築のための教員評価制度の効果的活用について -教育委員会ならびに高等学校教員に対するアンケート調査の結果をふまえて-

有機的な学校組織構築のための教員評価制度の効果的活用について -教育委員会ならびに高等学校教員に対するアンケート調査の結果をふまえて-

2009年4月1日

京都大学大学院 教育学研究科 研究生
静岡県立三ヶ日高等学校 教諭
原田直樹
(現職 静岡県立静岡城北高等学校 教諭)


原田直樹 研究生

 原田直樹 教育学研究科 研究生(静岡県立三ヶ日高等学校 教諭/現職 静岡県立静岡城北高等学校 教諭)は、全国的に導入が進められている教員評価制度について、教育委員会ならびに高等学校教員へのアンケート調査を実施し、同制度の課題を整理するとともに、より高い教育効果を生み出すべく教員組織の有機的な連携構築に結びつける方策について考察しました。

研究成果の概要

 自律的・自主的な学校経営が求められるなか、校長のリーダーシップの下で教員間の有機的な連携構築による組織的な取り組みが欠かせない。本研究の目的は、全国的に導入が進められている教員評価制度に着目し、制度が掲げる「教員の資質能力向上」および「学校組織の活性化」を実現させるべく効果的な運用モデルを提示することにある。これまでにも、教員評価制度に関しては「目標設定が困難である」「同僚性が損なわれる」「教育現場にはそぐわない」などの理由からその効用を疑問視する声と、逆に「意識改革ができる」「役割の認識ができる」「組織が活性化される」ことを期待する肯定的な声が各所から言われていた。そこで、教育委員会ならびに高等学校教員へのアンケート調査を通して、再度課題を整理するとともに、単に制度を廃止するのではなく、それを有効活用し、より高い教育効果を生み出すべく教員組織の有機的な連携構築に結びつける方策を模索しようと考えた。
  都道府県ならびに政令市教育委員会への調査からは、従来の勤務評定の課題を改善し、制度の定着を図るべくそれぞれの自治体で工夫された制度設計がなされている一方で、「同僚評価」等のさらに踏み込んだ取り組みをしている自治体は限られていることが覗えた。

  また、高校教員を対象とした調査からは、制度に対する否定的な意見が多数見られた。その中で多かったものは「業務は多様で不確実性が高く、書けないことが多い」が32.6%、「義務化・制度化には意味がない」が22.5%というように、目標管理制度における目標設定の困難さを訴える内容のものが目立つ。他方、肯定的に受け止めている教員も多数見られ、その理由としては、「やるべきこと・課題・役割が明確になる」が22.5%、「意識・行動改革になる」が11.2%であった。
  こうした調査や先行研究をふまえた上で、「目標管理」「勤務評価」「給与体系」それぞれについて私案を示した。多くの自治体が採用している「目標管理制度」については、学校組織の特徴を考えると、学校の組織レベルのチームワーク強化および教員個人レベルの資質能力の向上に特化したものとして扱うことが望ましいと考える。特に教科指導に関しては、教科主任のリーダーシップのもとで教科ごとに教員の協働による授業力向上のための機能的な組織構築が必要であると考える。また、何らかの形の「勤務評価」の必要性については7割を超える教員がその必要性を認めていることからも、多面評価の積極的な導入や組織的への貢献等も考慮するとともにコンピテンシーを活用するなど、従来の勤務評定の課題を改善した評価体系の在り方を示した。さらには、将来的には全ての公務員の給与が現在の年功序列から改められることが予想されるため、個々の教員の職務に着目し、その職責と努力に報いる形で支給される透明性・公平性を担保した「役割給」の可能性について提示した。