2025年春号
私を変えたあの人、あの言葉
知の広がりにときめいた京大時代
木谷百花さん
医師(血液内科)
京大に合格した春、ILASセミナー(全学共通科目の少人数ゼミ)の中でも人気の、民俗学ゼミの抽選にも通った。これが私の大学生活を決定付けた出会いだったと思う。ゼミは、菊地暁先生を先頭に、京都の街を歩いて人々の生活を覗き、歴史的背景も鑑みて議論(おしゃべり)する楽しいものだった。どこから聞きつけたのか、他大生や他回生も混じってぞろぞろ歩く日もあった。彼らは今でも私の好奇心を奮い立たせてくれる大切な存在だ。このゼミを通して、市井の人々の人生の奥深さを教わった。
入学当初はなんでもやりたい盛りで、他にも全学のディープなゼミに参加したり、海外で疫学研究もどきの調査をしたり、大学の研究所などいろんなところでバイトもした。おかげで個性的な人たちとの出会いと妙な経験だけは手に入れて、おいしいところをつまみ食いしたような大学生活を過ごしていた。だから鋭い知人からは「芯がない」と指摘されたりもした。「けれど20歳そこそこで、芯必要なんだろうか……」と能天気に開き直っていたら、4回生になっていた。
実は、京大生としてやりたいことがあった。世界で調査をしてきた先生方にインタビューし、どんな人に出会ってきたか聞かせてもらう企画だ。民俗学ゼミの友人も巻き込んで始めたところ、聞けた話はどれも目から鱗で、胸が高鳴った。ぜひ本にしたいと原稿化し、インタビュイーの先生の一人から紹介してもらった出版社を通して、6回生の終わりに『旅するモヤモヤ相談室』を出版した。テーマは「現代日本人のモヤモヤに効く、世界の人の知恵」。本を通して誰かを少しでも元気付けられるなら嬉しい。
確かに私に芯はないかもしれない。けれど、人の話を聞いてそれらを集めて束ねることで自分の軸を作ろうとしている。その軸の一部は、本など何らかの形できっと誰かと共有できる。そんな希望と、近々また出版したいという夢を抱きながら、私は今日も兵庫の病院で働いている。
地元の友人が「京大には、知的でお上品だけど裸足で地面走ってそうな人が多くていいなぁ」と言っていた。京大生に似合うのは、わんぱくな好奇心。これから京大に関わる機会がある方は、好奇心に正直に、ぜひのびのび学んでください。
大量の本に囲まれた菊地暁先生(一番手前)の研究室にて。緑のシャツの友人は菊池恭平さん。インタビュー企画を一緒に進めて、本に寄稿もしてくれました
本が出版された時。友人と書店へ行き、実際に売られているのを見て嬉しくなってパシャリ
きたに・ももか
1997年、富山県生まれ。2023年京都大学医学部医学科卒。2回生時にタイの薬剤耐性菌についての調査で第3回京都大学久能賞(*)を受賞。2023年在学中に『旅するモヤモヤ相談室』(世界思想社)を出版。現在は兵庫県の病院で内科医として働いている。趣味は読書と絵を描くこと。