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京都大学広報誌『紅萠』

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真理の探究と地球規模の課題解決

1897年、日本で2校目の帝国大学として創立された京都大学。「自由の学風」を掲げる京都大学はアジアで最多となるノーベル賞やフィールズ賞の受賞者を輩出。発見の源となる独創性や創造力を重んじる気風は、創立125周年を迎えた京都大学に今なお息づいています。
記念フォーラムの幕開けは、京都大学に関わるノーベル賞受賞者11名と、フィールズ賞受賞者2名の軌跡を紹介する映像。上映後、会場に招待されたフィールズ賞受賞者の廣中平祐博士、森重文博士が紹介され、野依良治博士、小林誠博士、山中伸弥博士、本庶佑博士、吉野彰博士が記念講演を行い、利根川進博士がビデオメッセージを届けました。
ここでは京都大学に関わるノーベル賞受賞者の系譜とともに、当日の熱気を振り返ります。

物理学

日本人初のノーベル賞
京都大学物理学の脈動

1949年 受賞
湯川秀樹 博士 (1907-1981)
1934年に「中間子理論」を発表。常識を覆す大胆な内容で、当初は科学者から相手にされなかったという。欧米の研究者を中心に徐々に注目を集めると、1947年、実験によってついに中間子の存在が証明される。日本人初のノーベル賞を受賞し、日本の科学の力を世界に示して、日本中に夢と希望を与えた。
1965年 受賞
朝永振一郎 博士 (1906-1979)
湯川博士とは中高と京都帝国大学の同級生。物理学者を悩ませ続けた、相対性理論と量子論の矛盾を解き明かす「くりこみ理論」でノーベル物理学賞を受賞。理論は今なお有効性を発揮し続け、現実の物理現象を再現するために不可欠である。
2008年 受賞
益川敏英 博士 (1940-2021)
小林 誠 博士 (1944-)
ともに京都大学理学部助手として研究に従事していた際に、「小林・益川理論」を発表。それまで3種類しか見つかっていなかったクォークが6種類あることを予言し、宇宙の成り立ちにまで迫る素粒子物理学の根本原理を導いた。
記念公演

素粒子研究の歩み

小林 誠 博士
高エネルギー加速器研究機構 特別栄誉教授

京都大学創立の年に始まり、20世紀に大きな進歩を遂げた素粒子研究の歩みを紹介。湯川博士、朝永博士の功績が素粒子研究に与えた影響のほか、ノーベル賞を同時受賞した益川博士との出会いにも触れながら、自身の発見を振り返りました。講演の最後には素粒子論研究者のアブラハム・パイスの著書から「What is past is prologue(過去は序幕にすぎない)」というシェイクスピアの戯曲の言葉を引用し、科学の発展、そして京都大学のこれからにエールを送りました。

2014年 受賞
赤﨑 勇 博士 (1929-2021)
1949年に京都大学に入学。同年、湯川博士の受賞の報を聞き、「自分もほかにはできない研究をしたい」と誓ったという。数多くの科学者が断念し、不可能とまで言われた青色発光ダイオード(青色LED)を発明。
化学

福井謙一博士から連綿とつながる
京都大学の化学研究

1981年 受賞
福井謙一 博士 (1918-1998)
物理学や数学の基礎理論で化学反応過程を説明するという偉業を達成。1952年に「フロンティア軌道理論」を提唱し、京都大学で教授を務めていた1981年に日本人初のノーベル化学賞を受賞。
2001年 受賞
野依良治 博士 (1938-)
キラル触媒による不斉反応の研究で2001年にノーベル化学賞を受賞。右手形、左手形の物質を作り分けることができるバイナップ触媒の開発は、とくに医薬品の分野へのインパクトが絶大だった。重大な副作用を防ぐことが可能になり、医療の安全性が飛躍的に高まった。
記念公演

湯川秀樹先生が残した「一枚の手ぬぐい」
科学者がつなぐ文化と歴史

野依良治 博士
科学技術振興機構 研究開発戦略センター長

湯川秀樹博士のノーベル賞受賞をきっかけに、科学に目覚めた野依博士。湯川博士がコロンビア大学の教授時代に使っていた「手ぬぐい」が李政道博士(1957年ノーベル物理学賞受賞)を経て、野依博士の手に渡ったエピソードを通して、科学者がつなぐ文化と歴史、巡り合いの妙を語りました。京大生時代に福井謙一博士の授業を受け、「見かけではなく、本物の研究を」という研究者のスタンスを学んだ思い出も披露しました。

2019年 受賞
吉野 彰 博士 (1948-)
福井謙一博士の孫弟子にあたる。スマートフォン、電気自動車などに使用されるリチウムイオン電池(LIB)を開発し、ノーベル化学賞を受賞。
記念公演

リチウムイオン電池が拓く未来社会

吉野 彰 博士
旭化成株式会社 名誉フェロー

京大生時代に熱中した考古学研究会での思い出から講演は始まり、福井謙一博士の理論からつながるリチウムイオン電池の負極材料の発見までの道のりを振り返りました。ノーベル賞の受賞理由に、モバイルIT社会への貢献だけでなく、持続可能な社会の実現への期待が述べられていることを取り上げ、AIEV(人工知能搭載の電気自動車)が活躍する未来を紹介。子どもたちが環境問題への不安を強く感じていることを危惧し、「解決の道筋は見えていると伝えたい。実現するのはあなたたちだ」と、自身も登場するPRビデオを通して明るい未来像を提唱しました。

生理学・医学

受賞をきっかけに未来への道を示す
生理学・医学賞受賞者の研究

1987年 受賞
利根川 進 博士 (1939-)
分子生物学の創成期に、100億以上の抗体が生成可能な理由を遺伝子の動きという独創的な発想で突き止め、日本人初のノーベル生理学・医学賞を受賞。他の研究者の追随を許さない成果であり、選考委員会は「100年に一度の偉大な研究」とコメント。
ビデオメッセージ

脳科学と人工知能学の融合

利根川 進 博士
理研MIT神経回路遺伝学研究室理研フェロー

京都大学の学生時代に分子生物学に出会い、アメリカの大学に留学生として飛び込んだ利根川博士。現在は研究分野を脳科学に移し、記憶を保持する「エングラム細胞」の発見など、多数の成果をあげています。さらなる発展を遂げる脳科学への期待とともに優れた研究者を輩出する京都大学への期待を述べ、メッセージを締めくくりました。

2012年 受賞
山中伸弥 博士 (1962-)
京都大学iPS細胞研究所長・教授を務めていた2012年にiPS細胞の開発でノーベル生理学・医学賞を受賞。一度分化した体の細胞を未分化の状態に戻すことができるiPS細胞技術を使って、治療法が確立されていない難病の原因解明、新しい治療法や薬剤の開発に大いなる可能性を示し、人々に希望と勇気を与えた。
記念公演

iPS細胞 進捗と今後の展望

山中伸弥 博士
京都大学iPS細胞研究所名誉所長・教授、公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団理事長

現在、いくつかの病気に対して治験・臨床研究が進んでいるiPS細胞の医療応用研究の現在地を、具体的な事例を挙げながら紹介しました。さらに、より安価で迅速なiPS細胞の提供を目指した「再生医療用iPS細胞ストック」の取り組みや、iPS細胞の創薬への貢献など、iPS細胞研究の展望を解説。共に研究や取り組みに邁進する仲間への感謝を述べ、講演を締めくくりました。

2018年 受賞
本庶 佑 博士 (1942-)
PD-1の阻害ががん治療に寄与することを発見し、京都大学高等研究院副院長・特別教授を務めていた2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞。人が本来持っている免疫によってがん細胞を攻撃する新しいタイプの治療薬の開発につながり、がんの免疫療法を確立。受賞記念の基金「本庶佑有志基金」を設立し、若手研究者への積極的な支援を続けている。
記念公演

獲得免疫の思いがけない幸運

本庶 佑 博士
京都大学大学院医学研究科附属がん免疫総合研究センター長、京都大学高等研究院副院長・特別教授

転機となった早石修先生、西塚泰美先生など、京都大学での恩師との出会いから、PD-1発見、そして抗体の作製に至るまでの道のりを振り返りました。臨床試験や治験のデータを交え、PD-1抗体(ニボルマブ)による免疫療法の効果も紹介しました。本庶博士がノーベル賞を受賞した2018年は、物理学・化学の分野でも生命科学に関するテーマが受賞したことに触れ、エネルギーや情報、食料、環境などのあらゆる問題に関わる生命科学の可能性を強調しました。最後に「生命科学はまだ分からないことも多いからこそチャレンジの対象だ。足を踏み入れてほしい」と、若者たちを激励しました。

パネルディスカッション

未来を創る若者たちへのメッセージ

  • ファシリテーター 湊 長博 京都大学総長
  • パネリスト ノーベル賞受賞者4名

記念フォーラムの最後にはパネルディスカッションが行われました。「ぜひとも若い人たちへのメッセージを」という湊総長の言葉を皮切りに、各者それぞれの視点から若者たちにエールを送りました。ノーベル賞受賞者4名が一堂に会する貴重な機会とあって、会場には高校生や在学生も多く集まり、博士たちの言葉に静かに耳を傾けました。

吉野博士が強調したのは、大学時代に熱中した考古学と、大学・企業での研究との共通点。考古学に没頭した経験が、課題に立ち向かうときの思考に大いに役立った経験を語り、学生時代になにかに夢中になれるものを見つけて没頭する大切さを伝えました。

小林博士は、益川博士と議論を交わした京都大学理学部物理学教室の雰囲気を振り返りながら、研究のブレイクスルーに必要な心構えを伝えました。目まぐるしく変化する現代において、ゆっくりと自分を育て、他者と異なる考えを持つ勇気を持ってほしいと若者の背中を押しました。

本庶博士は、日本の生命科学の現在と将来に目を向けて、率直な意見を述べました。困難の多い現代社会で学ぶ若者たちに寄り添いながら、「自らの考えを貫き通す力を養ってほしい」と、若者たちにメッセージを届けました。

野依博士は、未知や不可能への挑戦に欠かせない、想像力や好奇心を養うヒントを投げかけました。一人ではなく、仲間との共創、コ・クリエイションで新しい知恵をつくる重要性を語りました。

最後に湊総長から、「領域は違えど、受賞者のお話には、どこか共通したところがあると感じたのではないでしょうか。そこに大事なヒントがあるはずです。それは何かを考えて、友だち同士で議論してみてほしい」と、若者たちにメッセージを送り、ディスカッションを締めくくりました。

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