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私を変えた あの人・あの言葉

2021年春号

私を変えたあの人、あの言葉

京大との出会いは、まるで運命の悪戯のようだった

水原碧衣さん
国際派俳優・声優

小さい頃から映画が大好きで、大ファンだったジャッキー映画、チャップリンやオードリー・ヘップバーンの作品、各テレビ局で放送される洋画等ほぼ欠かさず見ていた。観客として楽しむだけでなく、役者の台詞や表情を常にマネして気が付くと登場人物にシンクロしているような子供だった。

必然的に「女優になりたい」と強く願うようになったが、教育に厳しい家庭で私に与えられた選択肢は医師、弁護士、官僚。「開業医になれば時間は自由、趣味で劇団も出来る」、「外交官なら一つ一つの場が自分を魅せる舞台。演じ切れば女優も同然」等と念仏のように唱えられる日々。最終的に医師を志し、高校は苦手な理系に進んだ。

一番熱中した社交ダンスサークルのイベントで。自分や新入生達の演目用のドレスを自らデザインし、中国の工場でオーダーメイド。ドレスの輸入通販ショップも立ち上げた

しかし元々好きではない科目の勉強の辛さ、国公立医学部のハードルの高さとプレッシャーに私はどんどん押し潰されていき、ついに受験直前に医学部を諦めて文転。「やはり本当に好きなことをしたい」。「エリートコース」を捨てて夢を追いかける覚悟だった。しかし運命の悪戯か──種受験を諦めた途端にセンター試験で自己史上最高得点を叩き出し、それがなんと京大の合格ラインに引っかかっていたのである。医学部志望の時には考えた事もなかった「京大」の名は私には眩し過ぎて、そのまま浮かれた勢いでダメ元受験することに。興味は文学部にあったが、親の「潰しが効く法学部に」という言葉で「確かになんかカッコいいし」とあっさり法学部志望に決めたのだから、本当にめちゃくちゃだ。

そんな半端なノリのまま本屋で京大の赤本を探していた時、理系時代の同級生にばったり遭遇。京大一筋だという彼に理由を聞くと、「ノーベル賞をとるため」だと熱く語った。女優以上に現実離れした単語に最初は面食らったが、余りの真剣さに私も燃え出し、「じゃあ私は法学部を出て官僚になって、研究に専念出来るよう支援するから、絶対にノーベル賞とってよ!」と、自分の夢も忘れ中二病が炸裂。「京大」という存在の重み、担うべき役割をこの時初めて噛みしめ、血ヘドを吐くほどの努力を経て合格を掴んだ。

合格してから始まる自分探し

「京大らしさ」の集大成として、舞妓姿で臨んだ卒業式

しかし入学後、当然ながら周りとのテンションの違いに愕然。私のように浮かれた人間はおらず、みんな目指す道はほとんど決まっていて、最初から本気モード全開だ。

対して私は何をとち狂ったのか熊野寮という異世界のような空間に入ってしまい、自由を極めた濃ゆい人達にいきなり囲まれてしまった。しかしさすが「腐っても京大生」。留年して毎日麻雀やらに明け暮れている人も、語ってみるとなかなか面白く、夜な夜な議論を繰り返しては、論破される一方だった。「普通の大学生活」を求めて1年で寮を出た後も、10個以上のサークルを掛け持ちして、本当にやりたいことを模索する日々が続いた。それにしても京大生は、本当に性格がいい。法学部の仲間達は劣等生な私をいつも温かく迎え入れてくれたし、どのサークルもたまに顔を出すだけの私を心広く受け入れてくれた。お陰で多種多様な人間と関わり続けられたし、幅広い価値観にも触れる事が出来た。

とある先輩のお言葉、「人生は所詮ネタ。おもろいことやったもん勝ちや」。いつだって本当の夢は「女優」だったのに、結局、お金も安定も捨てる勇気がなく、起業したり大学院に進んだり、散々遠回りをして迷子になり途方に暮れていた時、その言葉がふと浮かんだ。「ネタ人生でも良いじゃないか」。開き直って欲望をどんどんそぎ落としていって最後に残った「絶対に譲れないもの」、それはまさしく京大が謳う「自由」だったのだ。その答えを見つけた私は大学院を中退、全てを捨て中国へ渡り一人で一から女優修行する事を決意。やり切って夢にケリを付け帰って来るつもりだった。それが夢の始まりだったとも知らずに。

道は違えども京大で出会った友人達は永遠に特別な存在だ。どんな時も見捨てないでいてくれた。散々活動をサボって飲み会にだけひょいと現れた時も、試験直前に助けてと泣きついた時も、東京砂漠で干からびていた時も、いきなり海外へ飛び出し消息を絶った時も、そして夢を少しずつ形に出来た今もずっと変わらず、「やっぱりあおいちゃんらしいね」と言ってくれる仲間達に、感謝。


みずはら・あおい
京都大学法学部卒業。早稲田大学法科大学院中退後、中国北京電影学院演技科に留学。留学生が首席卒業という史上初の快挙を果たす。翌年には中露合作映画にメイン出演、主演女優の日中両語の吹き替えもこなした。2016年、東京国際映画祭の東京・中国映画週間で初主演映画『海を越えた愛』が金鶴賞を受賞。その後も中国を拠点に俳優、声優として活躍し、北京首都国際空港の日本語アナウンスも担当。2019年、ゴールデングローブ賞受賞の米話題作『フェアウェル』でハリウッドデビューを果たす。

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