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京都大学をささえる人びと

2019年春号

京都大学をささえる人びと

キャンパスの電気を見守り40年

足立融正さん
工学研究科事務部管理課

京都大学で活躍する学生や研究者を役者に例えるなら、キャンパス内の建築物はさながら舞台装置。役者の個性がきわだつ〈舞台〉を整え、長く使い続けられるよう維持する役割を担うのは施設系技術職員。建築、機械、電気の3分野のスペシャリストたちだ。40年にわたり京都大学の電気設備をささえてきた足立融正さんのお話から、「影の立役者」の仕事ぶりに迫る。

桂キャンパスをはじめ、京都大学の主要キャンパスには、一般家庭用の低圧電力ではなく、77,000ボルトの特別高圧で受電する。特高変電所で6,600ボルトの高圧に降圧し、各構内に配電された後、さらに各建物の電気室で低圧に降圧。それぞれの研究室や教室に送電される。電気室は地下にひっそりと設置されることが多く目立たないが、その数は大学全体で200を超える。「広大なキャンパスを保有する京都大学はひとつの街のようなもの。変電所や配電設備を維持管理する仕事はいわば電力会社です」。そう語る足立融正さんが携わるのは、照明や空調設備、コンピュータや実験機器の駆動など、研究・教育活動の動力とでもいうべき、電気系統全般。建築物やインフラの設計、積算、専門業者とのやりとり、施工管理、維持管理まで、電気に関わるあらゆる業務を一手に担う。

77,000Vの高圧電力を受電し、降圧する装置。地下の約300m2ほどの広い空間に配置されている

キャンパス内で今なお輝く仕事の結晶

就職してまもない20歳の足立さんが任されたのは、150平方メートルほどの建物の電気配線の図面設計。鉛筆と定規を手に、製図板に向き合う毎日だった。そうして完成したのは、稲盛財団記念館裏手にあるコンクリート・ブロック造のクラブボックス。「緊張しながらの初仕事。今も現役で使われているのは、自分の仕事が間違っていなかった証のようでうれしい」。

当たり前のように教室のすみにあるコンセントも、その数や配置は足立さんたち技術職員の技術と知恵の賜物だ。「先生や学生の要望をできるだけ聞いて、利便性の良いものをつくりたい。その思いは、40年間変わりません。予算や法律などと天秤にかけながら、実現できるよう努力します」。2016年に完成した農学研究科附属農場には、昼間の電気使用量をまかなえる太陽光発電パネルが設置されている。足立さんは関連業者への見積依頼、発電量と節電量の計算、配線の設計などを担当。「予算面の条件もあり、当初はパネルを減らす方向でしたが、『温室よりも太陽光パネルを』という先生の強い要望に応えたくて……。夜間電力もまかなえないかと計算してみましたが、高額で大容量の蓄電池設備が必要とわかり、やむなく諦めました」。

学内で初めてエスカレーターを導入した京大病院の外来診療棟や、百周年時計台記念館の電気設備も足立さんの仕事だ。「40年もいますから、あらゆる現場に携わっています。時計台のこだわりは照明器具。明かりの色合いを場所ごとに変えたり、シェードまわりの装飾をあえて古めかしく加工しました。納得のいく仕上がりです」。

安定的な稼働は日々の注視があってこそ

変電所内のパネルを見れば、桂キャンパスの電気の稼働状況が一目でわかる

さらに足立さんには、もう一つ、電気主任技術者としての任務がある。各キャンパスに1人ずつ任命され、電気設備の把握や保安点検、電気工事の監督などに従事する。自然災害による停電や装置の故障など、ひとたび電力系統に問題が起これば、研究や教育活動が妨げられるだけでなく、命に関わる事故にもつながる。問題なく稼働しているか、キャンパスの動きに目を光らせ、情報収集を怠らない。「責任はとても重いですが、京大に貢献できている実感があります」。言葉少なげに穏やかに語る足立さんのことを、同僚たちはひそかに「いぶし銀」と呼んでいるという。裏方に徹し、淡々と、しかし心を込めて誠実にこなすその背中は、40年の歳月が磨きあげた輝きを放つ。


あだち・みちまさ
1958年、兵庫県に生まれる。兵庫県立西脇工業高校電気科卒業。1983年に立命館大学理工学部卒業。1978年に京都大学施設部に採用され、以後構内各地に配属。2018年から現職。

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