2018年秋号
まなび遊山
建築の細部に宿るこだわり
京都大学の建築物を再発見
監修 中嶋節子 大学院人間・環境学研究科 教授
京都大学には、300を超える建物がある。明治の京都帝国大学の時代から、何期もの施設整備が積み重ねられ、現在の京都大学キャンパスが形づくられている。それぞれの時代の材料や技術、デザイン、設計者の思想が反映された建物たち。いつもなら目にもとめないような壁面や窓、造形にこそ、歴史や思想を読み解くヒントが隠されている
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あみだくじのような壁面デザイン
総合体育館
1972年に建設。当時の建築学科教授の増田友也による設計。人が集い、暮らす「開かれた建築」の思想を体現した建築で知られる。
左右幅50mにもおよぶ正面階段は、体育館内部と東大路通をおおらかにつなぐ。階段を昇った広場では、学生たちがダンスや楽器の演奏をすることも。関係者だけの閉じた場所ではなく、人が集う開かれた場所として機能している
弧を描く部分はいくつある?
旧施設部電話拡張交換室
1925年に竣工し、2度にわたり増築と改装。現在は学生と教職員の傷病診療と健康相談をする保健診療所として利用している。
窓や入口、屋外階段に共通するのが、半円形のモチーフ。窓は、様式建築のアーチ窓を簡略化、デフォルメしたような意匠が特徴。旧石油化学教室本館の窓と比べると、その違いがよくわかる
和洋折衷の土蔵風洋館
尊攘堂
レンガ造ながら、土蔵の趣がのこる擬洋風建築。1903年に京都大学に寄贈された。現在は、大学構内の埋蔵文化財調査成果の保存・展示に使用されている。
意匠が凝らされた切妻屋根つきの玄関ポーチ。手すり部分にも繊細で優雅な意匠がみられる
装飾の凝らされたドーマーウィンドウ(屋根窓)と屋根の頂点のフィニアル(頂華)
建築様式に則ったこだわりがぎっしり
文学部陳列館
文学部が収集した貴重な資料を収蔵する目的で1914年に建設。3度の増築をへて、1929年に完成。いびつさや複雑さが好まれたネオバロック建築の意匠が散りばめられている。華やかな意匠は陳列館という目的のため。京都大学でも特に正統な様式建築として評価されている。
ポーチ●曲線や唐草模様を組み合わせた意匠は、19世紀末にヨーロッパで流行したアール・ヌーヴォーを思わせる。材料はスチール。重厚な建物に比べて、軽くつくることで、優雅で華やかな印象を与える
キーストーン●アーチの頂部にあるくさび形の石。材料は石を模したモルタル。不釣り合いなほど大きくつくられ、上部の楕円形窓にまで達している。様式の定石を破る自由な造形がネオバロック的
京都大学最初の鉄筋コンクリート建築
旧建築学教室本館
1922年に竣工。京都大学ではじめての瓦屋根をもたない建築。斬新な意匠と、当時の最新の構造技法がつかわれている。
小豆色の外装タイルと、2階上部にまわされた白い帯が引き締まった印象を与える。入口上部の湾曲した壁面とバルコニーなど、正面中央部分には様式の枠から抜けだした斬新な意匠が凝縮されている
バルコニーを下から支える日本建築の肘木のような持ち送りにも、細かな装飾が凝らされていて、眺めれば眺めるほど楽しい
西洋のデザインだけではなく、中国式の雷紋模様など、アジアの雰囲気が取り入れられていることも興味深い。
1 階と 2 階の違いを探せ!
旧石油化学教室本館
1898年に「物理学及び数学教室」として建築。現存する最古期の京都大学の建物。数回にわたる増築をへて、現在の姿に。ノーベル賞を受賞した湯川 秀樹、朝永振一郎、福井謙一が研究をしていたのはここ。
1914年に2階を増築。 レンガを焼成する技術が向上し、2 階部分は焼きムラのないきれいな色のレンガが積まれている
1階(上)と2階(左下)との違いがよくわかるのが窓。建築技術が進歩し、より複雑で華やかなものがつくれるようになった
(ほぼ)対称に増築された東西の建物
法経済学部本館
1933年に西翼部分が竣工、1938年に中央部、戦後に東翼が 増築され、現在の〈コの字〉型の建物が完成。法・経済学部の授業が開講される教室や研究室がある。
スクラッチタイル●表面の引っかいたような模様が特徴。昭和初期に流行したタイルで、これがつかわれている近代建築はこの頃のものと推測できる
(左)建物全体は、水平の線を強調。旧来の縦方向を強調する建築様式から脱しようとしたセセッション様式の意匠が見られるが、入口部分にはゴシック的な縦方向の柱が配されており、緊張感をもたらしている